2つの正義
文字数 676文字
僕はずぶ濡れのまま、豹真に追いすがりました。慌てていたので、傘を開くのもそこそこに、「違う」とだけ告げました。
どっちでもいいが、と前置きして、豹真は本題に入りました。
「まだ、あのへたくそな祝詞を続ける気か」
ああ、とだけ答えると、豹真は「分かった」とだけ言って歩を早めました。急いでついていくと、煩わしそうな問いが帰ってきました。
「つまり、本番までお前の力をごまかし通すということだな」
そんなことは当たり前だ、とはっきり言い返しました。それが言霊使いの掟です。しかし、豹真の考えは違っていました。
「力を知られないことと、隠すことは違う。お前は、普通の人間じゃないことをそんなに恥じているのか?」
恥じてなどいません。父が先祖から受け継ぎ、人生を懸けて僕に伝えた力を、僕は誇りに思っています。
そう告げると、間髪入れずに「だったら」という言葉が返ってきました。
「堂々と使うべきだ。優れた者が正しく評価されず、劣ったものが大きな顔をしているのは、間違っている」
それが間違いなんだ、と反論が、自然に口をついて出てきました。なぜだか分かりません。ただ、間違いなく言えるのは、そのとき僕は豹真の顔を見ていなかったということです。背後に追いすがったから当然といえば当然なのですが、あの歪んだ笑みを思い出すのが嫌で、議論する相手の顔を想像することさえしませんでした。
むしろ、考えていたのは理子さんのことです。前日の大雨の中でまっすぐに立ち尽くしていた、理子さんの姿です。
あんなことだけはもう二度と許すまい、それだけを考えていました
どっちでもいいが、と前置きして、豹真は本題に入りました。
「まだ、あのへたくそな祝詞を続ける気か」
ああ、とだけ答えると、豹真は「分かった」とだけ言って歩を早めました。急いでついていくと、煩わしそうな問いが帰ってきました。
「つまり、本番までお前の力をごまかし通すということだな」
そんなことは当たり前だ、とはっきり言い返しました。それが言霊使いの掟です。しかし、豹真の考えは違っていました。
「力を知られないことと、隠すことは違う。お前は、普通の人間じゃないことをそんなに恥じているのか?」
恥じてなどいません。父が先祖から受け継ぎ、人生を懸けて僕に伝えた力を、僕は誇りに思っています。
そう告げると、間髪入れずに「だったら」という言葉が返ってきました。
「堂々と使うべきだ。優れた者が正しく評価されず、劣ったものが大きな顔をしているのは、間違っている」
それが間違いなんだ、と反論が、自然に口をついて出てきました。なぜだか分かりません。ただ、間違いなく言えるのは、そのとき僕は豹真の顔を見ていなかったということです。背後に追いすがったから当然といえば当然なのですが、あの歪んだ笑みを思い出すのが嫌で、議論する相手の顔を想像することさえしませんでした。
むしろ、考えていたのは理子さんのことです。前日の大雨の中でまっすぐに立ち尽くしていた、理子さんの姿です。
あんなことだけはもう二度と許すまい、それだけを考えていました