言霊使いが背負うもの

文字数 593文字

「お前は、人に時刻を聞くこともできんのだぞ」
 つまり、「いまナンジ?」と聞いたり、「ちょうどニジ!」と答えたりした途端に、空はにわかにかき曇り、稲妻が轟音と共に振ってくるということです。だから僕は、絶対に時計を手放せませんし、時計のないところでは時間を聞くのを我慢しなくてはなりません。 
 そんなわけで、僕が言霊を使ってしまったことに対するの父の怒りは、それはもうただごとではありませんでした。
「で、そこには誰がいた?」
 樫井豹真だけ、と答えると、父はほっと安堵の息をついてつぶやきました。
「それならまだいい」
 状況によっては、ごまかすのが大変なのです。
 言霊の働きが一度や二度目立ったくらいなら偶然で済みますが、ものによっては日常会話の中で特定の言葉を口にすることさえできなくなります。
 いちばんわかりやすい例が、「雨男」。
 あれは、雨を呼ぶ言葉が普段の会話の中に含まれているために起こる現象なのです。
 訓練されていれば、発した言葉が雨を降らせます。訓練されていない人の場合は、言葉が効果を及ぼす人と及ぼさない人で個人差があります。
 さらに、言葉で雨を降らせる人でも、実際に天気を変えられる場合とそうでない場合があるのです。
 「怪しまれたら、また……」
 それ以上は、申し訳なくて父に言わせるわけにはいかないので、僕は言葉を遮りました。
「それは分かってるよ」
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、重大な決断からはつい逃げてしまう。

 しかし、追い詰められたときに発する力は、大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、心のうちには自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いが秘められている。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、年長者にも妥協しない。

 物静かだが。判断は早く、行動力にあふれている。時機を捉えれば、最小限の手間でやるべきことをやり遂げる

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