日御子(ひのみこ)の祝詞

文字数 545文字

 もちろん、慣れない昔の言葉の羅列をいきなり声にしろと言われて、できるものではありません。
 怪我の功名というのか何というのか、結局「なんじ」の「んじ」は呑み込んで、「な」でつっかえてしまったのですが……。
 何が起こったのか分からない上に赤っ恥をかかされ、おろおろしている僕。
 そのうえ、紹介されたのは、目の前で僕をじっと見ていたあなたでした。
 折り畳みのパイプ椅子に腰かけている、真っ赤なトレパンに白いトレーナー、その上にどぎついピンクのヤッケを羽織った姿はあか抜けないものでしたが、正直、うろたえました。
 なぜかは、書けません。あのときの気持ちを表現できる適当な言葉が見つかりません。
 今でさえできないのですから、その場で何も言えなかったのはしかたがありません。
 そんなの言い訳、とお思いでしょうが。おそらく。
 僕を更に追い詰めたのは、あなたの第一声でした。
「これで高校二年? 小学生の方がまだマシですね」
 そう冷たく言うあなたはどう見ても僕より年下にしか見えなかったのですが。
「リコちゃん、それはどもならんて」
 町内会長さんの情けない声で、であなたの名前が「とね・りこ」というのだと察しがつきました。「とね」を刀祢と書くのか、刀根と書くのか分かりませんでしたが。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、重大な決断からはつい逃げてしまう。

 しかし、追い詰められたときに発する力は、大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、心のうちには自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いが秘められている。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、年長者にも妥協しない。

 物静かだが。判断は早く、行動力にあふれている。時機を捉えれば、最小限の手間でやるべきことをやり遂げる

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