嵐と想い

文字数 703文字

 自分と同じような人たちがいると思ったとき、涙があふれてきました。それで余計に雨がひどくなったかとも思いますが、過ぎたこととして、どうか許してください。
 檜皮さんが神楽を断ったと知ったときは、胸が痛みました。事情は分かりませんでしたが、きっと言霊使いにしか分からない苦しみがあるのに、私がそれを知らずに追い詰めてしまったのではないかと思ったのです。
 あの夜道を一緒に歩いたとき、そして檜皮さんが神楽の練習に来てくれたとき、私の心を縛っていたものがほどけていくような気がしました。冷たくしてごめんなさい。ああしないと、神楽の前に春の嵐が桜の花を全部吹き散らしてしまうかもしれないと思ったのです。
 檜皮さんと樫井さんの関係がただならぬことになっているのは何となく感じていましたが、言霊使い同士、そして男同士のこと、私が立ち入ることもできないまま、神楽の当日を迎えてしまったことは、本当に申し訳なく思っています。何かできたなら、いえ、何かしていたなら、こんなことにはならなかったかもしれません。
 檜皮さんが堂々と祝詞を上げたとき、きっと樫井さんとの間で決着をつけようとしているのだろうと思いました。そうなれば、ますます私の入り込む余地はありません。しかし、私の身体だけでなく、檜皮さんの身体に火が付いたとき、もう放っておくことはできませんでした。
 心の中で暴れ出した気持ちに任せて、雨風に身体を委ねたのです。
 だから、桜を全て吹き散らしてしまったあの嵐は、私の檜皮さんへの気持ちです。どう書き表していいか分かりません。恐ろしい女だと思われても構いませんし、忘れてもらったほうがいいかという気もします。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、重大な決断からはつい逃げてしまう。

 しかし、追い詰められたときに発する力は、大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、心のうちには自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いが秘められている。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、年長者にも妥協しない。

 物静かだが。判断は早く、行動力にあふれている。時機を捉えれば、最小限の手間でやるべきことをやり遂げる

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