言霊使いの掟

文字数 650文字

 肌に熱いものが感じられて、ふと身体を見渡せば、うっすらと煙が立っています。
 祭文の意味と豹真の力は、そこで分かりました。

  火の立つや、火の立つや、一・二・三・四、炎立つ……。

 何もないところに火を起こす。
たぶん、そのキーワードは「ほむら」……。
 その時思ったのは、僕が父に言霊を鍛えられてきたように、豹真も亡き父親から同じように育てられてきたのだろう、ということです。
 そうなると、自分の身体に火が点きかかっていることの恐怖よりも、またそうしている豹真への怒りよりも、むしろ同情や憐れみのほうが強く感じられました。
 しかし、それが豹真に伝わるわけはありません。
「使え! お前の言霊! 大火傷するぞ!」
 きな臭い匂いの中で、僕は叫びました。
「やめろ! 言霊使い同士は闘っちゃいけないって、知らないのか?」
 それが僕たちの掟です。互いに傷つけあって、共倒れにならないための。しかし、豹真はそれを軽く笑い飛ばしました。
「そんなもんがあったかもしれんな。俺はずっと一人でこうしてきたから関係ない」
 ぞっとしましたが、聞かずにはいられませんでした。
「言霊使いでない人にまで?」
 楽しそうな笑い声が返ってきました。心からの笑いだったでしょう。
「そうさ、バカはいくら傷ついてもいい!」
 あの甲高く耳障りな声は、今になっても忘れることができません。豹真は舞い上がっていました。生まれて初めての、言霊使い同士の戦いに。
「さあ見せろ、お前の言霊! 使わなければ焼けて死ぬぞ!」
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、重大な決断からはつい逃げてしまう。

 しかし、追い詰められたときに発する力は、大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、心のうちには自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いが秘められている。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、年長者にも妥協しない。

 物静かだが。判断は早く、行動力にあふれている。時機を捉えれば、最小限の手間でやるべきことをやり遂げる

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