最後通告
文字数 624文字
だから、豹真がこんなことを言っても全く気になりませんでした。
「言霊使いが、ろくにしゃべれもしない姿を人前にさらすんだ。掟を共にする仲間たちに対して、何とも思わないのか」
それを言われると弱いのです。普通の人とは異なる存在である僕たちが生きていくには、仲間同士の助け合いが欠かせません。それは、幼い頃から父に叩きこまれてきたことです。
そう考えると、豹真の気持ちも無視できないのでした。
平日の昼時で、田舎町の道路にはそれほど人も車も通りません。誰の姿もないのを確かめてから、僕は傘を投げ出して豹真に頭を下げました。
豹真は慌てて傘を拾い、腰を折った僕の姿を隠すように差し掛けました。
「おい、何のつもりだ」
豹真は相当うろたえていました。チャンスです。僕は年下の男の子に必死で頼みました。
「腹立たしいのは分かる。だけど、君があと数日だけ目をつぶってくれたら……」
再び傘が路面に転がりました。返事がありません。身体を起こすと、豹真は、もう遥か遠くにいました。
今度は僕がうろたえました。さすがに傘を拾うだけの余裕くらいはありましたが、それこそ転びそうな勢いで追いかけます。声が届きそうな距離まで来て、ようやく「待って」とだけ言うと、低いかすれ声が「近寄るな」と拒みました。
思わず立ち止まると、一方的な通告が聞こえてきました。
「お前があのままの祝詞を上げる気なら、理子が火傷を負うことになる」
豹真はやる気だと直感しました。
「言霊使いが、ろくにしゃべれもしない姿を人前にさらすんだ。掟を共にする仲間たちに対して、何とも思わないのか」
それを言われると弱いのです。普通の人とは異なる存在である僕たちが生きていくには、仲間同士の助け合いが欠かせません。それは、幼い頃から父に叩きこまれてきたことです。
そう考えると、豹真の気持ちも無視できないのでした。
平日の昼時で、田舎町の道路にはそれほど人も車も通りません。誰の姿もないのを確かめてから、僕は傘を投げ出して豹真に頭を下げました。
豹真は慌てて傘を拾い、腰を折った僕の姿を隠すように差し掛けました。
「おい、何のつもりだ」
豹真は相当うろたえていました。チャンスです。僕は年下の男の子に必死で頼みました。
「腹立たしいのは分かる。だけど、君があと数日だけ目をつぶってくれたら……」
再び傘が路面に転がりました。返事がありません。身体を起こすと、豹真は、もう遥か遠くにいました。
今度は僕がうろたえました。さすがに傘を拾うだけの余裕くらいはありましたが、それこそ転びそうな勢いで追いかけます。声が届きそうな距離まで来て、ようやく「待って」とだけ言うと、低いかすれ声が「近寄るな」と拒みました。
思わず立ち止まると、一方的な通告が聞こえてきました。
「お前があのままの祝詞を上げる気なら、理子が火傷を負うことになる」
豹真はやる気だと直感しました。