皮肉と居直り

文字数 507文字

 僕は、帰り際に豹真を呼び止めました。
「何であんなことやったんだ! あのおじさん関係ないだろ!」
 豹真はしれっと答えたものです。
「俺は人助けをしたつもりなんだけどな」
 まかりまちがって雷を呼んでしまっても困るので、なるべく冷静に話しかけたつもりだったのですが、さすがに怒りがこみ上げてきました。
「誰が助かったんだよ、誰が!」
 お前がさ、と鼻先に突きつけられた人差し指を、手の甲で弾くように押しのけると、豹真は口元を歪めて笑いました。
「あのまま行けば、町内会の皆さんの時間を食いつぶし、刀根理子にはバカにされ、役場に来る人の前で午前中いっぱい、いい晒しものだぜ」
 そんなのは言い訳だと思いましたが、ここまでしゃあしゃあと言い抜ける豹真を追及するだけ無駄です。
 だから僕は、努めて冷静に言いました。
「来年は君がお世話になるかもしれない人たちだってこと、忘れないようにね」
 毎年交代なのだから、いかに小柄とはいえ、お鉢が回ってくる可能性は充分あるのです。
 この皮肉が通じたのか通じなかったのか、豹真は僕をおいて駐車場を駆けて行きました。
 こう言い捨てて。
「来年も、この調子で切りぬけてやるさ」
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、重大な決断からはつい逃げてしまう。

 しかし、追い詰められたときに発する力は、大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、心のうちには自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いが秘められている。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、年長者にも妥協しない。

 物静かだが。判断は早く、行動力にあふれている。時機を捉えれば、最小限の手間でやるべきことをやり遂げる

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