大人の我慢の限界
文字数 637文字
そこへ町内会長さんが鍵を持ってとぼとぼやってきましたが、僕たちを見るなり、両腕を広げて駆け寄ってきました。もっとも、ハグしようとした瞬間、理子さんは要領よくその腕をすり抜けたので、酒臭い身体で抱きしめられたのは僕一人でしたが。
大人たちがいつものようにやってきて練習が始まると、知らないうちに来ていた豹真が横笛の音を流していました。
始めさもらへ、始めさもらへ、日御子の宣 らしたまふや、な……
町内会長さんが再びダメを出しましたが、僕はアクセントを変えたり、言葉を変えたりしてごまかしをやめませんでした。
大人たちは渋い顔をしましたが、町内会長さんは「まあまあ」となだめてくれました。しかし、とうとう一人が怒りだして町内会長さんと喧嘩を始めたのは、練習を繰り返すたびに堂々と間違いをやらかす僕の横着さに我慢が出来なくなったからでしょう。
その怒りの矛先が僕に向かうのも当然です。
「おい、坊! ちょっとこっちこい!」
そう怒鳴られても、僕はもう怖くありませんでした。
「すみません!」
大げさなぐらいに頭を下げてみせましたが、そんなことで許してもらえないのは想定内です。
やる気がないだの、大人を舐めてるだの、罵詈雑言が飛んできましたが、やりすごせば済むことです。
勝負どころは、そこではないのですから。
しかし、僕がやりすごしても、正面から受け止める者がいたら意味がありません。
横笛の音がブチっと途切れて、甲高い声が喚き散らしました。
大人たちがいつものようにやってきて練習が始まると、知らないうちに来ていた豹真が横笛の音を流していました。
始めさもらへ、始めさもらへ、日御子の
町内会長さんが再びダメを出しましたが、僕はアクセントを変えたり、言葉を変えたりしてごまかしをやめませんでした。
大人たちは渋い顔をしましたが、町内会長さんは「まあまあ」となだめてくれました。しかし、とうとう一人が怒りだして町内会長さんと喧嘩を始めたのは、練習を繰り返すたびに堂々と間違いをやらかす僕の横着さに我慢が出来なくなったからでしょう。
その怒りの矛先が僕に向かうのも当然です。
「おい、坊! ちょっとこっちこい!」
そう怒鳴られても、僕はもう怖くありませんでした。
「すみません!」
大げさなぐらいに頭を下げてみせましたが、そんなことで許してもらえないのは想定内です。
やる気がないだの、大人を舐めてるだの、罵詈雑言が飛んできましたが、やりすごせば済むことです。
勝負どころは、そこではないのですから。
しかし、僕がやりすごしても、正面から受け止める者がいたら意味がありません。
横笛の音がブチっと途切れて、甲高い声が喚き散らしました。