少年の反抗

文字数 641文字

 しばらく誰もが口を開かず、部屋一杯に気まずい雰囲気が充満していましたが、とうとう豹真がプレーヤーの電源を切り、アンプとの接続ケーブルを力任せに全て引き抜いたかと思うと、公民館を飛び出してしまいました。
 慌てた町内会長さんが後を追います。
 豹真との会話が、どんどん遠ざかっていくのが分かりました。
「ちょい待て!」
「俺、もう帰る!」
「ああ、そのコード……」
「これ、俺の私物!」
「それがないと……」
「だったら俺が吹いてやるよ!」
 次に出て行ったのは、さっき僕を怒鳴りつけた人でした。いい年をして、はるか年少の者にきちんと謝ることもできないようです。
 それに続いて、他の大人たちもぶつくさいいながら帰ってしまいました。
 残ったのは、僕と理子さんだけでした。
 やったことがどう思われているか気になって、理子さんの顔色を伺うと、思いっきりそっぽを向かれて心がひしゃげました。
「カッコ悪……」
 そのとき、強い風がどっと吹いて、窓ガラスをガタガタ揺らしました。
 やがて、町内会長さんが汗を拭き拭き戻ってきましたが、僕たちだけが残った公民館の中に座り込んで、それはそれは深い溜息をつきました。
 さすがにこれはやり過ぎたかと思って、声をかけるのもちょっとためらわれましたが、そこで動いたのは理子さんでした。
「あの、さっきいの要領でええんやったら、見てくれんかな?」
 町内会長さんが苦笑したのを覚えています。
こうして、その日の練習は、3人だけで再開されたのでした。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、重大な決断からはつい逃げてしまう。

 しかし、追い詰められたときに発する力は、大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、心のうちには自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いが秘められている。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、年長者にも妥協しない。

 物静かだが。判断は早く、行動力にあふれている。時機を捉えれば、最小限の手間でやるべきことをやり遂げる

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