もう1人の言霊使い
文字数 557文字
しかし、「春」の曲はすぐに止み、この隙に帰ろうとした僕の足は止まりました。
背後の戸が開いたのです。
「あの、とね……さん?」
刀根と刀祢、どちらを書くのか分からないままにウロ覚えの名前を呼ぶと、返事をしたのは男の声でした。
「刀に根っこと書いてトネだ」
振り向くと、そこには小柄な少年が立っています。
「理科の理に子供で、理子。今、自分の稽古をつけてもらってる」
上目遣いに僕を睨みつけるなり、初対面の僕に理子さんよりも失礼なことを言いました。
「面汚し」
男が相手なら何の気兼ねもいらないはずですが、僕はやはり何も言えませんでした。
畳み掛けながら見つめるそのまなざしには、背筋がぞっとするような何かがあったのです。
「檜皮和洋。俺はお前を知ってる」
まさか、と思いました。ひとつだけ、心当たりがあったのです。
僕は尋ねてみました。
「君も?」
彼は頷きました。
「樫井豹真(かしい ひょうま)。覚えておけ」
同じ言霊使いがそんなに簡単に出会うものか、と思うかもしれませんが、僕たちの同類は結構、あちこちにいます。お互いに連絡を取り合い、血筋と技を受け継ぐには何かと不便の多い世の中を、助け合って生きているのです。
実際、僕と父がここへやってきたのも、仲間内の紹介があったからなのです。
背後の戸が開いたのです。
「あの、とね……さん?」
刀根と刀祢、どちらを書くのか分からないままにウロ覚えの名前を呼ぶと、返事をしたのは男の声でした。
「刀に根っこと書いてトネだ」
振り向くと、そこには小柄な少年が立っています。
「理科の理に子供で、理子。今、自分の稽古をつけてもらってる」
上目遣いに僕を睨みつけるなり、初対面の僕に理子さんよりも失礼なことを言いました。
「面汚し」
男が相手なら何の気兼ねもいらないはずですが、僕はやはり何も言えませんでした。
畳み掛けながら見つめるそのまなざしには、背筋がぞっとするような何かがあったのです。
「檜皮和洋。俺はお前を知ってる」
まさか、と思いました。ひとつだけ、心当たりがあったのです。
僕は尋ねてみました。
「君も?」
彼は頷きました。
「樫井豹真(かしい ひょうま)。覚えておけ」
同じ言霊使いがそんなに簡単に出会うものか、と思うかもしれませんが、僕たちの同類は結構、あちこちにいます。お互いに連絡を取り合い、血筋と技を受け継ぐには何かと不便の多い世の中を、助け合って生きているのです。
実際、僕と父がここへやってきたのも、仲間内の紹介があったからなのです。