炎の言霊
文字数 702文字
「できない」
僕は断言しました。
子どもの頃からどれだけ引っ越してきたでしょう。どれだけ父に職を変えさせたでしょう。母は、そんな生活に疲れたのか、去っていきました。
もういい加減、静かに暮らしたかったのです。
父から聞いていた彼の境遇は僕よりも過酷なのですから、そんな気持ちは話せば分かるはずでした。
「君だって、使わずにやってこられたんだろ?」
豹真の言霊がどんなものかは分かりませんでしたが、人前で使えばタダで済むわけがありません。両親を失い、人の厄介になっている立場ではなおさらのことです。
しかし、豹真は顔を歪めて笑いました。
「使ったさ。言霊も、頭も」
僕の身体に、ぞっとするものが走りました。
言霊を使う者同士は、それが働く前から互いにそれを感じ取れると父から聞いたことがありましたが、それを実感したのは初めてでした。
実感できたことは、まだありました。
それまで何となく感じていた、豹真の性格の悪さです。
「事故が起こっても、周りには、その場の誰かのせいだと思わせればいい」
いちばん知り合いになりたくないタイプでした。
言霊使いがお互いをそれと感じ取れるのには、それなりにいいこともあるのですが。
なぜなら、父が言うには、言霊とは違う力を持つ者たちもいるからです。
お互いにその存在は感知できないので、こうして仲間同士を見分けて固まることで棲み分けができてきたということなのですが、この場合はお互いに気づかないほうが幸せだったのではないかと真剣に思いました。
どうやら豹真にとって、僕は仲間というより対等の喧嘩相手のようでした。
「いやなら、使わせてやるよ」
僕は断言しました。
子どもの頃からどれだけ引っ越してきたでしょう。どれだけ父に職を変えさせたでしょう。母は、そんな生活に疲れたのか、去っていきました。
もういい加減、静かに暮らしたかったのです。
父から聞いていた彼の境遇は僕よりも過酷なのですから、そんな気持ちは話せば分かるはずでした。
「君だって、使わずにやってこられたんだろ?」
豹真の言霊がどんなものかは分かりませんでしたが、人前で使えばタダで済むわけがありません。両親を失い、人の厄介になっている立場ではなおさらのことです。
しかし、豹真は顔を歪めて笑いました。
「使ったさ。言霊も、頭も」
僕の身体に、ぞっとするものが走りました。
言霊を使う者同士は、それが働く前から互いにそれを感じ取れると父から聞いたことがありましたが、それを実感したのは初めてでした。
実感できたことは、まだありました。
それまで何となく感じていた、豹真の性格の悪さです。
「事故が起こっても、周りには、その場の誰かのせいだと思わせればいい」
いちばん知り合いになりたくないタイプでした。
言霊使いがお互いをそれと感じ取れるのには、それなりにいいこともあるのですが。
なぜなら、父が言うには、言霊とは違う力を持つ者たちもいるからです。
お互いにその存在は感知できないので、こうして仲間同士を見分けて固まることで棲み分けができてきたということなのですが、この場合はお互いに気づかないほうが幸せだったのではないかと真剣に思いました。
どうやら豹真にとって、僕は仲間というより対等の喧嘩相手のようでした。
「いやなら、使わせてやるよ」