正論か挑発か
文字数 660文字
僕は困りました。
理子さんとの闘いは、豹真の勝ちです。理子さんの前で、僕は祝詞を上げることができません。しかし、僕を心配してくれた理子さんに、「邪魔だから帰れ」とはとても言えませんでした。
しかし、帰るどころか、押し黙ったまま棒立ちになった僕に代わって口を開いたのは理子さんでした。
「それは、私の言葉ってことにしてくれませんか?」
何、と豹真が目を剥くのも構わず、理子さんは舌鋒鋭く責め立てました。
「忙しいんです、私。受験生なんです。いいんですよ、帰っても。そのときは、神楽もやりません。母が何と言おうと。樫井さん、責任とってもらえますか?」
豹真は大岩の上に立ちあがりましたが、それはまるで低い身長を補おうとでもするかのように見えました。実際、その物言いは偉そうでしたが、声は震えていました。
「俺に、何の責任があるって?」
理子さんには分かるはずもありませんでしたが、その朝の爆発事件に限っていえば、豹真は図星を突かれた形になります。現に、僕の身体には、既にあの悪寒が這いこんでいました。しかし、理子さんを止める術はありませんでした。
「この日御子神楽ができなくなったとき、これに関わっている人たち全員を納得させる責任です。それができないのに難癖だけつけるなんて、口答えを覚えた幼児のすることです」
豹真の口元が歪んだのを見たとき、まさか、と僕は思いました。朝に起こったカセットコンロのことが思い出されました。さかのぼって、「バカはどれだけ傷ついてもいい」、そして、「使ったさ、言霊も、頭も」……。
理子さんとの闘いは、豹真の勝ちです。理子さんの前で、僕は祝詞を上げることができません。しかし、僕を心配してくれた理子さんに、「邪魔だから帰れ」とはとても言えませんでした。
しかし、帰るどころか、押し黙ったまま棒立ちになった僕に代わって口を開いたのは理子さんでした。
「それは、私の言葉ってことにしてくれませんか?」
何、と豹真が目を剥くのも構わず、理子さんは舌鋒鋭く責め立てました。
「忙しいんです、私。受験生なんです。いいんですよ、帰っても。そのときは、神楽もやりません。母が何と言おうと。樫井さん、責任とってもらえますか?」
豹真は大岩の上に立ちあがりましたが、それはまるで低い身長を補おうとでもするかのように見えました。実際、その物言いは偉そうでしたが、声は震えていました。
「俺に、何の責任があるって?」
理子さんには分かるはずもありませんでしたが、その朝の爆発事件に限っていえば、豹真は図星を突かれた形になります。現に、僕の身体には、既にあの悪寒が這いこんでいました。しかし、理子さんを止める術はありませんでした。
「この日御子神楽ができなくなったとき、これに関わっている人たち全員を納得させる責任です。それができないのに難癖だけつけるなんて、口答えを覚えた幼児のすることです」
豹真の口元が歪んだのを見たとき、まさか、と僕は思いました。朝に起こったカセットコンロのことが思い出されました。さかのぼって、「バカはどれだけ傷ついてもいい」、そして、「使ったさ、言霊も、頭も」……。