大人の対応

文字数 579文字

「うるせえんだよ、ジジイ!」
 豹真でした。
 CD操作を投げ出して、僕を怒鳴りつけていた大人に迫ります。
「遊んじゃいねえだろ、やってんだろ、『なんじ』って言えねえだけだろ、出来ねえことをやらねえって決めつけてんじゃねえよ、だから家んなかでも相手にされなくて、こんなところでブラブラしてんじゃねえの?」
 本当に余計なことをする男です。
 これには他の大人たちもカチンときたらしく、一人、また一人と豹真を取り囲み始めました。
 豹真はと見れば、あのひきつった笑みを浮かべています。
 背中に悪寒が走りました。言霊「ほむら」が使われるときに感じる、あの感覚ですが、それを知らないはずの理子さんが「樫井さん」とたしなめにかかるほど、その場の雰囲気は悪くなっていました。
しかし、これこそ僕の出番です。
 僕は恥も外聞もなく、町内会長さんを含む大人たちひとりひとりに媚びて回りました。
「すみません、何でか分かりませんけど、そこんとこだけ上手く出来ないんです。すみません、本当にすみません! 本番はしっかりやりますんで、どうか最初のとこだけ、どうか!」
  傍目からみれば、その場の空気に耐えきれずにテンパってしまった根性なしの高校生そのものだったでしょう。
 豹真を含め、理子さんも、町内会長さんも、その場にいる全員が引いてしまったことが、肌で感じられました。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、重大な決断からはつい逃げてしまう。

 しかし、追い詰められたときに発する力は、大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、心のうちには自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いが秘められている。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、年長者にも妥協しない。

 物静かだが。判断は早く、行動力にあふれている。時機を捉えれば、最小限の手間でやるべきことをやり遂げる

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