切ない眼差し
文字数 571文字
さらに、理子さんのアイデアは目の付け所もさるところながら、その方法も独創的でした。
「ですから、その言葉が口グセになればいいんじゃないか、と思うんです。意識するのが原因なんですから、無意識のうちに声が出ればいいんです」
ゆっくり話したのは、僕があまり賢くない、という配慮からだと思います。もしかするとバカにされていたのかもしれませんが、いい思い出のほうを取っておきます。
さて、そこで唐突に理子さんが言い出したのは、これでした。
「どんな曲が好きですか?」
これには僕もちょっと戸惑いました。話が飛躍しすぎていたからです。しかも、声を低めて尋ねられたので、僕が知らないうちに何か悪いことでもしているかのような錯覚にとらわれました。
答えに困っていると、理子さんは更に同じことを尋ねて急かします。あまり音楽には詳しくありませんが、慌てるとなかなか思い出せないものです。おまけに理子さんは、うつむき加減に目を閉じて、額に手を当てています。僕の目には、相当の怒りを溜め込んでいるように見えました。
僕は記憶を探るヒントを求めて、あちこち見渡してみました。
川のほとりの山、町を挟んだ反対側に連なる山並み、うっすらと雲の流れる春先の青空、殺風景な河原……。
ふと、その河原の広さが気になりました。川の幅に比べて、河原が広すぎるのです。
「ですから、その言葉が口グセになればいいんじゃないか、と思うんです。意識するのが原因なんですから、無意識のうちに声が出ればいいんです」
ゆっくり話したのは、僕があまり賢くない、という配慮からだと思います。もしかするとバカにされていたのかもしれませんが、いい思い出のほうを取っておきます。
さて、そこで唐突に理子さんが言い出したのは、これでした。
「どんな曲が好きですか?」
これには僕もちょっと戸惑いました。話が飛躍しすぎていたからです。しかも、声を低めて尋ねられたので、僕が知らないうちに何か悪いことでもしているかのような錯覚にとらわれました。
答えに困っていると、理子さんは更に同じことを尋ねて急かします。あまり音楽には詳しくありませんが、慌てるとなかなか思い出せないものです。おまけに理子さんは、うつむき加減に目を閉じて、額に手を当てています。僕の目には、相当の怒りを溜め込んでいるように見えました。
僕は記憶を探るヒントを求めて、あちこち見渡してみました。
川のほとりの山、町を挟んだ反対側に連なる山並み、うっすらと雲の流れる春先の青空、殺風景な河原……。
ふと、その河原の広さが気になりました。川の幅に比べて、河原が広すぎるのです。