父の説教

文字数 659文字

 しかし、本当の問題は、その夜に起こったのです。
 帰宅して夕方まで寝ていたところ、どう見ても定時に退勤したとしか思えないくらいの早い時間帯に帰った父が、僕をその場に正座させて「雷」を落としました。
 地震・雷・火事・オヤジのうち、2つが揃ったわけです。
「お前は何を考えとるんだ!」
 父は痩せて背のひょろ高い男ですが、一旦怒ると、貧相な身体のどこから出るのかと思うような大声を出します。その勢いは、本物の雷にもひけをとりません。
 僕の言霊を鍛えたときも、ずっとこんな調子で怒鳴り通しでした。
「和洋、ここ座れ、ここ」
 父の説教は、向かい合って正座というのが基本です。
「何で怒ってるか、心当たりはあるな?」
 僕はこういうとき、「はい」とだけ答えて頭を下げます。
 いちいち説明しなくても、そこはもう阿吽の呼吸で分かるのです。
 晴天に突然轟いた遠雷の音に、父は僕が言霊を使ってしまったのを察したのでしょう。
「自分がやったのがどれほどまずいことか、分かってるな?」
 分かっているからこそ、神妙にしているのです。
 なにしろ、言霊は訓練すればするほど危険なものになります。
 それは、すでにお話しした僕や豹真のことを思い返してもらえれば分かりますよね。
 力を持つ言葉が日常会話の中に含まれていればなおさらのことで、常に注意を払っていないと周りの人がとんでもない迷惑をこうむります。
 豹真の使う「ほむら」は、普段使う言葉ではありませんが、僕の「なんじ」はどちらかというと警戒を要するほうだといえるでしょう。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、重大な決断からはつい逃げてしまう。

 しかし、追い詰められたときに発する力は、大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、心のうちには自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いが秘められている。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、年長者にも妥協しない。

 物静かだが。判断は早く、行動力にあふれている。時機を捉えれば、最小限の手間でやるべきことをやり遂げる

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