ヒノキとトネリコの出会い
文字数 659文字
出会った時から、印象は最悪じゃありませんでしたか?
桜どころか、まだ朝晩が肌寒い頃、町内会長さんから「こちら、とねりこさん」と、あなたを紹介されたとき、ストーブの前でぼうっと座っていた僕は返事をしませんでしたね。
こう思ったからです。
「何でガーデニングの話なんか?」
そのくらい、僕の気持ちは動転していました。
あの山間の町に転校して一週間は、新居の準備やら制服の仕立てやらで町内を走り回り、それがようやく一段落ついたところで、いろいろ親切にしてくれた町内会長さんが「頼みがあるけんども」と話を持ち掛けてきたのが前日、四月一日。
ワゴンに積める程度のものしかありませんでしたが、前日までの引っ越しで疲れてしまい、昼近くまで寝ていた僕は、「神楽に出とくれんかな?」と言われて「カグラ」という言葉の意味を聞き返すことなく、呆けた頭のままで「はい」と返事をしてしまったのです。
夜遅くになってやっと転職先の年度初め業務から帰ってきた父は、僕の話を聞くなり「勝手に決めるな」とだけ言って寝てしまいました。
1日明けて迎えに来た町内会長に招かれるまま、黒のジャージ姿でにたどり着いたのは、町内の小さな公民館でした。
そう、あなたと出会った「日御子(ひのみこ)神楽」の稽古場です。
大きなアンプがある割には石油ストーブのガンガンに焚かれた部屋の畳に上がるなり、僕は神楽の祝詞(のりと)を渡され、大勢の大人の前で読まされたのでした。
始めさもらへ、始めさもらへ、日御子の宣(の)らしたまふや、汝(なんじ)……
桜どころか、まだ朝晩が肌寒い頃、町内会長さんから「こちら、とねりこさん」と、あなたを紹介されたとき、ストーブの前でぼうっと座っていた僕は返事をしませんでしたね。
こう思ったからです。
「何でガーデニングの話なんか?」
そのくらい、僕の気持ちは動転していました。
あの山間の町に転校して一週間は、新居の準備やら制服の仕立てやらで町内を走り回り、それがようやく一段落ついたところで、いろいろ親切にしてくれた町内会長さんが「頼みがあるけんども」と話を持ち掛けてきたのが前日、四月一日。
ワゴンに積める程度のものしかありませんでしたが、前日までの引っ越しで疲れてしまい、昼近くまで寝ていた僕は、「神楽に出とくれんかな?」と言われて「カグラ」という言葉の意味を聞き返すことなく、呆けた頭のままで「はい」と返事をしてしまったのです。
夜遅くになってやっと転職先の年度初め業務から帰ってきた父は、僕の話を聞くなり「勝手に決めるな」とだけ言って寝てしまいました。
1日明けて迎えに来た町内会長に招かれるまま、黒のジャージ姿でにたどり着いたのは、町内の小さな公民館でした。
そう、あなたと出会った「日御子(ひのみこ)神楽」の稽古場です。
大きなアンプがある割には石油ストーブのガンガンに焚かれた部屋の畳に上がるなり、僕は神楽の祝詞(のりと)を渡され、大勢の大人の前で読まされたのでした。
始めさもらへ、始めさもらへ、日御子の宣(の)らしたまふや、汝(なんじ)……