春の空を駆ける稲妻
文字数 477文字
荒い息をつきながら、豹真は言いました。
「服着ろよ」
もう、服から煙は出ていませんでした。
言われなくても、と腹の中で毒づきながら、僕は脱いだ服の砂を払って再び身に付けはじめました。
豹真は諦めたのか、ものも言わずに背を向けて、歩み去っていきます。僕はようやく安心することができました。
しかし、羽織ったジャージのファスナーを上げたとき。
あの悪寒が、再び襲ってきました。
僕はとっさに叫びました。
な、なじ、なんじ、にじ、とよみなれ! (汝、蛇、汝、虹、響み鳴れ!)
彼方の山の向こうが一瞬だけ陰り、稲妻が一瞬閃いたかと思うと、微かな轟きが聞こえました。
これが、僕の言霊です。「なじ」「なんじ」あるいは「にじ」。
どれも「蛇」を意味する古代の言葉に由来するものですが、その時代には稲妻も「天空を駆ける蛇」と捉えられていたらしく、それが言葉に力を持たせる源となっているようなのです。
遠い空で雷が鳴った瞬間、ぞっと来る感触は失せました。振り向いて見ると、ごつい大岩が転がる山の中の採石場から、豹真の姿は消えていました。
「服着ろよ」
もう、服から煙は出ていませんでした。
言われなくても、と腹の中で毒づきながら、僕は脱いだ服の砂を払って再び身に付けはじめました。
豹真は諦めたのか、ものも言わずに背を向けて、歩み去っていきます。僕はようやく安心することができました。
しかし、羽織ったジャージのファスナーを上げたとき。
あの悪寒が、再び襲ってきました。
僕はとっさに叫びました。
な、なじ、なんじ、にじ、とよみなれ! (汝、蛇、汝、虹、響み鳴れ!)
彼方の山の向こうが一瞬だけ陰り、稲妻が一瞬閃いたかと思うと、微かな轟きが聞こえました。
これが、僕の言霊です。「なじ」「なんじ」あるいは「にじ」。
どれも「蛇」を意味する古代の言葉に由来するものですが、その時代には稲妻も「天空を駆ける蛇」と捉えられていたらしく、それが言葉に力を持たせる源となっているようなのです。
遠い空で雷が鳴った瞬間、ぞっと来る感触は失せました。振り向いて見ると、ごつい大岩が転がる山の中の採石場から、豹真の姿は消えていました。