真摯な助言

文字数 593文字

 理子さんの言う「特訓」のポイントは、もっともなことでした。相手が僕でなかったら、たいてい上手くいくだろうと思います。
「檜皮さんは、必ず同じ言葉を間違えます。間違えるから、違う言葉でごまかそうとするんですよね」
 当たらずとも遠からず、でした。後半だけ当たってましたから。
「私、思うんですけど、その言葉を言おう言おうとして構えるから、かえって間違えちゃうんじゃないでしょうか」 
 そう受け取られていたなら、たいへん望ましいことです。言霊使いが人の中で生きていくのに肝心なのは、不自然な行動や現象にどうやって理由をつけるかということですから。
 さらに、理子さんのアイデアは目の付け所もさるところながら、その方法も独創的でした。
「ですから、その言葉が口グセになればいいんじゃないか、と思うんです。意識するのが原因なんですから、無意識のうちに声が出ればいいんです」
 ゆっくり話したのは、僕があまり賢くない、という配慮からだと思います。もしかするとバカにされていたのかもしれませんが、いい思い出のほうを取っておきます。
 さて、そこで唐突に理子さんが言い出したのは、これでした。
「どんな曲が好きですか?」
 これには僕もちょっと戸惑いました。話が飛躍しすぎていたからです。しかも、声を低めて尋ねられたので、僕が知らないうちに何か悪いことでもしているかのような錯覚にとらわれました。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、重大な決断からはつい逃げてしまう。

 しかし、追い詰められたときに発する力は、大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、心のうちには自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いが秘められている。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、年長者にも妥協しない。

 物静かだが。判断は早く、行動力にあふれている。時機を捉えれば、最小限の手間でやるべきことをやり遂げる

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