最初の対決

文字数 615文字

 僕もすぐに帰ろうかと思ったのですが、そこで声をかけてきたのは、樫井豹真でした。
「ちょっと顔貸せ」
 相変わらず、彼はぶすっとしていました。
 本当は帰りたかったのですが、ここで断ると後を引きそうだという判断が勝ち、「昼飯前に済む用事なら」と条件を付けて、ついていきました。
着いた先は、公民館からだいぶ離れたところにある、山肌を削った採石場でした。
 人家のあるところなどとうになく、あるのは舗装もされていない道と、ごろごろ転がる大きな岩だけです。
 どう考えても関係者以外立ち入り禁止の場所です。
 うすぼんやりと晴れた空の下で、僕たちは乾いた砂を踏みしめ、向かいあって立ちました。
 場所的にも雰囲気的にも、昼食は遅くなりそうでした。
 そこで僕は、とりあえず謝っておくことにしたのです。
「悪かったよ、代わってもらって」
 しかし、豹真の怒っていたポイントは、そこではありませんでした。
「やれって言ったろう」
 僕が祝詞を上げなかったことを言っているのです。
 それは無理だ、と僕はさいぜんから言っていることを繰り返しました。
 この力を人に知られたら、また引っ越さなければいけません。まるで趣味であるかのように。
 父は転職三日目で、辞表を出さなくてはなりません。根性なしの新入社員でもないのに。
 しかし、豹真にとってそんなことは知ったことではありません。
 彼は、僕に言霊使いのプライドがないと思っているのです。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、重大な決断からはつい逃げてしまう。

 しかし、追い詰められたときに発する力は、大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、心のうちには自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いが秘められている。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、年長者にも妥協しない。

 物静かだが。判断は早く、行動力にあふれている。時機を捉えれば、最小限の手間でやるべきことをやり遂げる

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