彼女の呼び出し
文字数 601文字
練習が中止されてしまったので、僕にはヒマな一日が待っているはずでしたが、神様というのはなかなかに意地が悪いものです。
帰ろうとした僕は、背後から理子さんに呼び止められました。
「つきあってくれませんか?」
淡々とした口調でしたが、どきっとしました。いや、いい意味で。
「交際してくれ」の意味でないことは理解できていましたよ、もちろん。
そこで、「どこへ?」と尋ねたわけですが、僕が連れて行かれたのは町はずれの河原でした。
山裾に沿って流れる川のほとりの広い場所でしたが、山間なので、ところどころに大きな岩の転がる河原の石はごつごつと大きく、たいへん歩きにくくなっていました。
足もとの石がときどきぐらつき、僕はバランスを崩しがちでしたが、理子さんは軽々と歩くので、ついていこうにも距離はどんどん開いていきます。
やがて、トレパンにヤッケ姿の理子さんは大岩の一つに腰を掛けて、僕を待っていてくれました。ようやくたどり着いた僕に「遅いですよ」と言うなり、目の前にぽんと飛び降りて宣告したのは、この一言でしたね。
「特訓します」
帰りがけの一言とおなじくらい、どきっとしました。
特訓という言葉に、いい思い出はないんです。父親が厳しかったもので……。
それにしても、まさか前日に会ったばかりの年下の女の子からシゴかれることになろうとは。このときばかりは、情けなくて涙が出そうになりました。
帰ろうとした僕は、背後から理子さんに呼び止められました。
「つきあってくれませんか?」
淡々とした口調でしたが、どきっとしました。いや、いい意味で。
「交際してくれ」の意味でないことは理解できていましたよ、もちろん。
そこで、「どこへ?」と尋ねたわけですが、僕が連れて行かれたのは町はずれの河原でした。
山裾に沿って流れる川のほとりの広い場所でしたが、山間なので、ところどころに大きな岩の転がる河原の石はごつごつと大きく、たいへん歩きにくくなっていました。
足もとの石がときどきぐらつき、僕はバランスを崩しがちでしたが、理子さんは軽々と歩くので、ついていこうにも距離はどんどん開いていきます。
やがて、トレパンにヤッケ姿の理子さんは大岩の一つに腰を掛けて、僕を待っていてくれました。ようやくたどり着いた僕に「遅いですよ」と言うなり、目の前にぽんと飛び降りて宣告したのは、この一言でしたね。
「特訓します」
帰りがけの一言とおなじくらい、どきっとしました。
特訓という言葉に、いい思い出はないんです。父親が厳しかったもので……。
それにしても、まさか前日に会ったばかりの年下の女の子からシゴかれることになろうとは。このときばかりは、情けなくて涙が出そうになりました。