冷たい少女の頑ななこだわり

文字数 700文字

 名前に漢字をどう当てればいいのか、いろいろと考えていた僕の頭を現実に引き戻したのは、急に横柄になったあなたの口調でした。
「有馬高生は、もう探しないたんかな?」
 探したわあ、と町内会長さんは口を尖らせて答えましたね、目をそらしながら。
 有馬高校。
 僕が転校したのとは別に、そんな名前の公立高校が近くにあるのは知っていました。
 どちらかというと、当然、そこそこレベルが高くて、授業料を払わなくていいほうが魅力です。
 しかし、訳あって急に引っ越したので、定員の厳しい公立ではなく、私学に入らざるを得なかったのです。
 そんなわけで、一瞬だけ考えたのは、「ああ、もともとお呼びでなかったんだな」ということでした。
 しかし、そういった少し惨めな気持ちは、あなたの知ったことではなかったようです。
 パイプ椅子の倒れる音が稽古場一杯にけたたましく響き、あなたは僕を見据えて立ち上がりました。
「ちょっと来てくれませんか?」
 丁寧に、しかしトゲのある冷ややかさで「ちょっと顔貸せ」と言っているあなたは怖かった。僕はおとなしく従うことにしました。そういうことにしてるんです、こういうときは。昔から。
 稽古場の外にあなたに呼び出されたとき、よく晴れているとはいっても、桜が咲く前の空気はまだ冷たいものでした。
 その春先の気候並みにぞくっとさせてくれたものです、あなたのまなざしは。
「会ったばかりでこんなこと言うのナンですけど」
 逃がすまいというつもりか、僕を公民館の戸を背にして立たせ、長い黒髪をさあっと撫でるなり、一呼吸おいて言い放ってくれましたね、結構失礼なことを。
「高校生ですよね?」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、重大な決断からはつい逃げてしまう。

 しかし、追い詰められたときに発する力は、大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、心のうちには自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いが秘められている。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、年長者にも妥協しない。

 物静かだが。判断は早く、行動力にあふれている。時機を捉えれば、最小限の手間でやるべきことをやり遂げる

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み