それぞれの見つめる道

文字数 731文字

「……ってことは、刀根さんは中学3年生?」
 ぎりぎり15歳ということになりますよね。
「町立の氷月(ひづき)中」
 てっきり、樫井豹真も同い年かと思って聞きました。
「じゃあ君も?」
 物凄い形相で睨まれました。
「俺は有馬高の1年」
 それなら、祝詞の条件に合っています。
すぐに気づきましたが、僕が何も言わないうちに不機嫌そうな答えが返ってきました。
「背が低いとダメなんだとさ。」
 フォローの言葉もありませんでしたが、彼は自己完結してくれました。
「俺も別にやりたくないし、こうやってBGM流してるほうが性に合ってる」
「神楽にクラシック?」
 まさかそんなはずはないと思いましたが。
「お囃子さ。横笛を吹ける大人も減ってるんでな」
「じゃあ、助けてくれたあのビバルディは?」
 フォローのつもりで聞いてみると、彼の頬が心なしか緩んだ気がしました。
「いつも聞いてるのをアンプにつないだのさ」
 懐からレコーダーを取り出して見せてくれましたが、表情を強張らせてすぐ引っ込め、話題を理子さんのことに戻しました。
「刀根理子も別にやりたくなさそうだけどな。受験生だし」
「じゃあ何で?」
  会ったばかりの年下の相手に罵詈雑言浴びせられて、結構気分を害していた僕です。正直なところ。そこまでムキになる理由を知りたいと思いました。
「あそこは代々、しきたりにうるさい婿取りの家でな。母親が仕切ってんのさ」
 気の毒ではありましたが、さいぜんの辛辣な発言でチャラ、ということにしました。新学期が始まれば、もう会うこともありません。問題は、どっちの高校に来るかということです。
 授業料無償の県立有馬高校か、学費がかかってちょっとランキングの低い私立勿来高校か。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、重大な決断からはつい逃げてしまう。

 しかし、追い詰められたときに発する力は、大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、心のうちには自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いが秘められている。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、年長者にも妥協しない。

 物静かだが。判断は早く、行動力にあふれている。時機を捉えれば、最小限の手間でやるべきことをやり遂げる

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