言霊との闘い

文字数 521文字

 もともと黒いジャージなので目立ちませんでしたが、あちこち焦げているようでした。豹真はもはや正気とは思えませんでしたが、それでも僕の頭の中で引っかかっていることがありました。
 なぜ言霊が動かないと、焼けて死ぬのか? 見せれば、やめてくれるのか?
 そう考えて、一つだけ、思い当たったことがありました。
 僕の言霊の効果のうち、豹真が見て知っている可能性があるのは、理子さんを前にしたときの、空を覆う暗雲しかありません。
 もし、そうであれば、明らかな勘違いです。
 僕の力は、雨風を起こすことではありません。火をつけられても、消せないのです。
 已むを得ません。
 僕はジャージを脱ぎ始めました。脱いだものを片端から地面の砂に叩きつけていると、今度は靴下に、そして下着に火が付きます。僕は構わず脱ぎ続けました。
「何してるんだ、お前!」
 豹真の金切り声を聞き流し、僕は最後に残った腰の一枚に手を掛けました。
「やめろ! バカかお前は!」
 僕は笑いました。
「そうさ、僕はバカだ。好きなだけ傷つけるがいい。ほら!」
 これで全裸になる、というところで、豹真は僕に飛びつきました。
 どうやら、こういう結末はプライドが許さなかったようです。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、重大な決断からはつい逃げてしまう。

 しかし、追い詰められたときに発する力は、大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、心のうちには自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いが秘められている。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、年長者にも妥協しない。

 物静かだが。判断は早く、行動力にあふれている。時機を捉えれば、最小限の手間でやるべきことをやり遂げる

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