第49話

文字数 767文字

「米田伍長、僕は…。
正直言って、死ぬのが怖いです。
お国の為にって、自ら志願したのに…。」
「甲斐の感情は当たり前の感情や。
それに俺だって、全く怖くない訳では無いで?」
「あの場にいた人達も、君と同じ気持ちやと思う。特に学徒出陣で徴兵された大学生達は特に…」



特攻作戦に参加を表明して数日経ったある日。会議室の前を通りかかった時の事でした。

「お願いします!!私を、特攻に行かせて下さい!!!」
「(川本曹長!?)」

あのいつも冷静な川本曹長が、
必死に特攻に行かせて欲しいと懇願していました。

「落ち着いて下さい!川本曹長!」

高橋曹長が川本曹長をなだめます。

「しかし川本曹長。その怪我では…。」
「坂元大佐。私は18歳からずっと戦闘機を操縦して来ました。この程度の怪我なら、敵に突撃するには全く問題ありません。」
「……」
「医者には、もう全線に復帰するのは不可能との事。どうか…!どうか、お願いします…!!軍人としての最期の務めをさせて下さい!!」
「川本曹長…」
「…お前なら、行かせてくれと言うだろうと思っていたよ。“隆司(たかし)”」

…“たかし”?
そう言えば、川本曹長のお名前を聞いた事がありませんでした。
もしかして、川本曹長のお名前でしょうか。

「何とかしてみる。少し時間をくれ。」
「ありがとう…!!ありがとうございます…!!」



「!!」

坂元大佐、川本曹長、高橋曹長が会議室から出て来ました。
盗み聞きをするのは良くない事ですが…
つい足を止めてしまいました。

「田中か。」
「はっ!」
「丁度いい。田中。川本曹長を病室まで送って差し上げろ。」

坂元大佐からお叱りを受けるかと思いましたが、そうはならずに少しほっとしました。

「はっ!かしこまりました!」



「支えは必要でしょうか?」
「必要ない。自力で歩ける。」
「何かあったら言ってください。」
「あぁ。ありがとう。」
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