第57話
文字数 1,420文字
紗和目線の物語⑩
引き戸を開け、浩二くんを招き入れました。
「…手紙、読んだんか?」
「うん…」
「そっか。やっぱり特攻の事が書いてあったん?」
私は頷きます。
「浩二くんも、行くの…?」
「ああ。」
「……そう…だよね…」
「紗和ちゃん…」
浩二くんは、幼なじみなのですが、
兄であり弟である存在です。
生まれたのが私の方が少しだけ早いから、
子供の頃から勝手に姉貴ぶっていました。
ですから、浩二くんは昴さんとは違う意味で
とても大切な人。
失いたくありません。
『行かないで』と泣きながら浩二くんに言いたいけれど、ぐっと我慢しました。
「浩二くん、何か用事?」
「いや?紗和ちゃんと話がしたくて来ただけやで?」
「そうなんや!じゃあさ、最近始めた絵の先生の話でもしようかな。」
「おう!」
夕飯の時間まで、浩二くんと色んな話をしました。
私の近況以外にも、思い出話に花を咲かせました。
◇
浩二くんと過ごす時間は、あっという間に過ぎて行きました。
明日、彼は三宮に向かい、母と会ってから呉に戻ります。
それから知覧へ行くそうです。
「紗和ちゃん」
「なに?」
就寝前、障子の向こうから、浩二くんの声が聞こえました。
「俺さ、紗和ちゃん達と家族になれて、ほんまに良かったわ。ありがとう。」
「……そんな事言われたら…泣いちゃうから辞めてよ…!」
「ごめんなぁ。どうしても言いたかってん。」
「うん…」
「本当は言っちゃ駄目なんやけど」
「おう」
「昴さんと浩二くんに、特攻に行って欲しくない…!!」
「………」
浩二くんは、何も言いませんでした。
日本中の人が、声に出さないけど思っていると思います。
泣きたいけど泣かずに耐えて、大切な人を送り出しています。
「…ごめん。」
私は、何て辛抱が出来ない人間なのでしょう。
「紗和ちゃんがそれぐらい俺の事を大切に思ってくれてるのが分かって、嬉しいわ。」
「そんなん…当たり前の事やん…。」
「頭の良い紗和ちゃんの事やから、
今日本がどんな状況で、これからこうなるだろうって、分かると思うねん。」
「それは…」
「でも行くわ。怖くないかって言われたら、正直怖いねんけどな!」
「……」
涙が頬を伝います。
「そろそろ寝るか。
ごめんな。寝る前に話し掛けて。」
「ううん…」
「おやすみ。紗和ちゃん」
「おやすみなさい。浩二くん…」
◇
「短い間でしたが、お世話になりました。」
お義母様と晴子ちゃんと私で浩二くんのお見送りをしました。
「浩二くん、どうか…。
どうか、最期までお体を大切にね…!」
「ああ!」
浩二くんの笑顔が本当に眩しく、そして悲しく感じました。
「浩二くん、道中お気をつけて。」
「はい。ありがとうございます。」
「米田さん!!」
晴子ちゃんが、浩二くんにお弁当と手紙を渡しました。
「汽車の中で食べて下さい!」
「ありがとう!!手紙もめっちゃ嬉しいわ!」
浩二くんが晴子ちゃんの頭を優しく撫でます。
浩二くんの前で決して涙を見せまいと気丈に振る舞うその姿は、私よりも立派でした。
「それでは、行ってきます。」
背筋を正し、指の先まで綺麗に伸ばした敬礼をし、浩二くんは田中家を去って行きました。
私達は、浩二くんの姿が見えなくなるまで見送りました。
「…っ!!」
浩二くんの姿が見えなくなってから、
晴子ちゃんが走って何処かに行きました。
「……」
晴子ちゃんを見て、お義母様は黙って俯いています。
「お義母様、私、配給を受け取って来ますね。」
「ありがとう。紗和ちゃん。」
配給所に向かう途中、私も誰にも見られない様に涙を流しました。
引き戸を開け、浩二くんを招き入れました。
「…手紙、読んだんか?」
「うん…」
「そっか。やっぱり特攻の事が書いてあったん?」
私は頷きます。
「浩二くんも、行くの…?」
「ああ。」
「……そう…だよね…」
「紗和ちゃん…」
浩二くんは、幼なじみなのですが、
兄であり弟である存在です。
生まれたのが私の方が少しだけ早いから、
子供の頃から勝手に姉貴ぶっていました。
ですから、浩二くんは昴さんとは違う意味で
とても大切な人。
失いたくありません。
『行かないで』と泣きながら浩二くんに言いたいけれど、ぐっと我慢しました。
「浩二くん、何か用事?」
「いや?紗和ちゃんと話がしたくて来ただけやで?」
「そうなんや!じゃあさ、最近始めた絵の先生の話でもしようかな。」
「おう!」
夕飯の時間まで、浩二くんと色んな話をしました。
私の近況以外にも、思い出話に花を咲かせました。
◇
浩二くんと過ごす時間は、あっという間に過ぎて行きました。
明日、彼は三宮に向かい、母と会ってから呉に戻ります。
それから知覧へ行くそうです。
「紗和ちゃん」
「なに?」
就寝前、障子の向こうから、浩二くんの声が聞こえました。
「俺さ、紗和ちゃん達と家族になれて、ほんまに良かったわ。ありがとう。」
「……そんな事言われたら…泣いちゃうから辞めてよ…!」
「ごめんなぁ。どうしても言いたかってん。」
「うん…」
「本当は言っちゃ駄目なんやけど」
「おう」
「昴さんと浩二くんに、特攻に行って欲しくない…!!」
「………」
浩二くんは、何も言いませんでした。
日本中の人が、声に出さないけど思っていると思います。
泣きたいけど泣かずに耐えて、大切な人を送り出しています。
「…ごめん。」
私は、何て辛抱が出来ない人間なのでしょう。
「紗和ちゃんがそれぐらい俺の事を大切に思ってくれてるのが分かって、嬉しいわ。」
「そんなん…当たり前の事やん…。」
「頭の良い紗和ちゃんの事やから、
今日本がどんな状況で、これからこうなるだろうって、分かると思うねん。」
「それは…」
「でも行くわ。怖くないかって言われたら、正直怖いねんけどな!」
「……」
涙が頬を伝います。
「そろそろ寝るか。
ごめんな。寝る前に話し掛けて。」
「ううん…」
「おやすみ。紗和ちゃん」
「おやすみなさい。浩二くん…」
◇
「短い間でしたが、お世話になりました。」
お義母様と晴子ちゃんと私で浩二くんのお見送りをしました。
「浩二くん、どうか…。
どうか、最期までお体を大切にね…!」
「ああ!」
浩二くんの笑顔が本当に眩しく、そして悲しく感じました。
「浩二くん、道中お気をつけて。」
「はい。ありがとうございます。」
「米田さん!!」
晴子ちゃんが、浩二くんにお弁当と手紙を渡しました。
「汽車の中で食べて下さい!」
「ありがとう!!手紙もめっちゃ嬉しいわ!」
浩二くんが晴子ちゃんの頭を優しく撫でます。
浩二くんの前で決して涙を見せまいと気丈に振る舞うその姿は、私よりも立派でした。
「それでは、行ってきます。」
背筋を正し、指の先まで綺麗に伸ばした敬礼をし、浩二くんは田中家を去って行きました。
私達は、浩二くんの姿が見えなくなるまで見送りました。
「…っ!!」
浩二くんの姿が見えなくなってから、
晴子ちゃんが走って何処かに行きました。
「……」
晴子ちゃんを見て、お義母様は黙って俯いています。
「お義母様、私、配給を受け取って来ますね。」
「ありがとう。紗和ちゃん。」
配給所に向かう途中、私も誰にも見られない様に涙を流しました。