第32話

文字数 886文字

私が向かったのは、紗和さんの秘密の場所。
ここも焼けてしまったけれど、
私にとって大切な場所です。

「っ…」

あの人が言った事は、何も間違っていない。
だからこそ悔しいのです。
戦争で家にいない私よりも、
裕福なあの人の方が、紗和さんを幸せにしてあげられる。
夢を叶えてあげられる。
それに万が一戦争が終わって帰って来ても、
私は紗和さんに苦労をかけることになるでしょう。

それなら…もう…。

「昴さん!!!」
「……」

愛しい愛しい彼女がそこにいます。
ずっと声が聞きたかった。
ずっと会いたかった。
こんな事が無かったら、私はすぐに彼女を抱き締めていたでしょう。

「昴さん、せっかく来てくれたのに、
こんな事になってしまってごめんなさい。」
「……」
「お相手の方にはもう帰ってもらったよ。
私には、昴さんしかいないもん。」
「………」
「昴さん…。本当にごめんなさい!
だから…だから、声を聞かせて…!!」

振り返ると、そこには綺麗な着物を着て
おめかしをした紗和さんがいました。
これが自分の為ではなく、
他の男と会う為だと思うと、
嫉妬で頭がおかしくなりそうでした。

「…いつ死ぬか分からない僕よりも、
あの人と一緒にいた方が、君は幸せになれるんやろうな。」
「え…昴さん…?」
「あの人なら、君の夢も叶える事が出来る。
…僕には出来へん事が、あの人は沢山出来る。」

悲しくて悔しくて、涙が止まりません。

「悔しいよ…!!僕だって、
紗和さんの夢を叶えたいのに…!!」

「!!」
「戦争が終われば、また…っ、
絵の勉強が出来ると思って…!」
「…っ!!」
「その為に、どんなに辛くて苦しい戦いも、耐えて来たのに…!!
こんな事になるぐらいなら、次の戦闘で、
敵に突撃して死んでやる!!」

その瞬間、物凄い勢で
紗和さんは私に抱き着きました。

「ぅわっ!!」

抱き着く…と言うより、飛びつく…
と言った方が正しいのでしょうか。
急な事だったので、そのまま後ろに倒れてしまいました。

「嫌!!昴さん!!そんな事言わんといて!!お願い…!! 」
「………」
「昴さんが居なくなったら、私…!!
うぅ…っ!」
「!!」

紗和さんを泣かせてしまった事に気が付き、
私は我に返りました。
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