第2話

文字数 1,228文字

学校に入学してから3ヶ月程経った頃でしょうか。私は三宮の街に出ました。
この街に来てから、寮や学校以外の場所の土地勘を掴む時間が中々取れなかったのです。

「離してよ!!」
「そこまで拒否せんでもええやん」
「俺らとちょっと遊ぼうやぁ」
「!!」

女の子と男性2人の声が聞こえました。
1人の男性が女の子の肩に触れています。

「……おい」

私は迷わず男性の腕を掴みました。

「なっ!!」
「何だよおめー…っ!?」

きっと私の服装を見て、男性は驚いたのでしょう。

「か弱い女性に何している!!それでも日本男児か!!恥を知れ!!」
「ちっ!なんだよ、軍人かよ…っ!!」
「おい、逃げるぞ!!」

腕を離すと、2人は風の様な速さで去って行きました。

「(腰抜けが…)怪我はありませんか?」
「は、はい!!あの、ありがとうございます…!!」 
「いえ、そんな…。それではお気を付けて。」
「軍人さん、お名前を教えて頂けますか!?」
「え?」
「どうしてもお礼がしたいのです!!」

名乗る様な事はしていないのですが、女の子の熱意に負けました。

「田中昴です。」
「田中さんですね。私は伊藤紗和と申します。」

伊藤紗和。
この時は何も感じて居ませんでしたが、
この後私にとって特別な人となる女性です。

「伊藤さん、僕は何も特別な事はしていませんし、お気持ちだけでとても嬉しいですよ。」
「でも…」

紗和さんは、どうしても何かの形でお礼をしたい…と言った表情をしていました。

「…そうだ。では、僕の力になって下さいませんか?」

お願いをすると紗和さんは、ぱっと笑顔になりました。

「はい!!是非!!」
「伊藤さんは、この土地にはとても詳しいんですか?」
「はい!生まれも育ちも三宮です!!」
「では後日、三宮を案内してくれませんか?
実は僕、田舎から軍人になる為に三宮に来たのですが、まだ完全に土地勘を掴んでいなくて。案内して頂けませんか?」
「はい!!喜んで!!」

私は持ち歩いていた紙の端を破り、連絡先を記入しました。

「僕は陸軍飛行兵学校の、三ノ宮第二寮棟で暮らしています。何かあったらここに…」
「あ!!」
「ど、どうしました?」
「私の実家、その寮の隣です!」



何と紗和さんは、私達が暮らす寮の、
寮母さんの娘さんだったのです。
紗和さんは、東京の軍事工場で働いていたそうですが、
おかみさんの仕事を手伝う為、三宮に帰って来たみたいです。
話をしていると、彼女と私は歳が同じだと言う事が分かり、直ぐに打ち解ける事が出来ました。

「…という訳で、三宮駅から降りた途端、あのちんぴら共に絡まれたという訳。」
「そうだったんや…。」
「あ、お母さん!!」

紗和さんの実家の門の前に、紗和さんのお母さん…おかみさんが手を振って立っていました。

「紗和!!おかえり!!」
「ただいま!!」
「ってあれ?昴くん?」
「私がちんぴら共に絡まれているのを、昴さんが助けてくれたんよ!!」
「まぁ…!!昴くん、ほんまに…ほんまにおおきになぁ…!!」
「そんなおかみさん!頭を上げてください。」
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