第20話

文字数 1,174文字

「白川くん!!!?」

明らかに重症を負った白川くんがいました。

「良かった……昴くん……」

白川くんは、私の名前を呼ぶと、その場で倒れてしまいました。

「白川くん!!」

私は白川くんを担ぎ、病院へ向かいました。



「白川さん!!?」

病院に着くと、松本さんが待機していてくれました。

「直ぐに手当します。
田中さん、白川さんを寝かせるのを手伝って!」
「分かった!」

手当は、松本さんと、もう1人、先輩従軍看護婦の方がやってくれました。

「これは…」
「あの、白川くんの容態は…?」
「この状態で、ここまで帰って来れたのが奇跡と言えるレベルだわ…」

先輩従軍看護婦さんが言いました。

「松本さん。後は任せても良いかしら?」
「はい。」
「ごめんなさい。席を外すわね…。」

先輩従軍看護婦さんが席を外してすぐ、
白川くんが目を覚ましました。

「昴くん…」

私は、白川くんの手を握りました。

「ずっと…言いたかった事が、あるんや…」
「白川くん…」

私は、松本さんの方を見て、小声で言いました。

「米田くんと長谷川くんを連れて来て貰っても良いかな?」
「分かった。」
「ありがとう。」

「白川くん、言いたかった事って…?」
「…昴くん…薄々は気付いていたやろけど…
僕、生まれつき病気で20歳まで生きられへんねん…」
「!!!」

確かに彼が言う通り、今までおかしいなと思う部分はありました。
時々顔色が悪かったり、咳をしていたり。
でも、まさかそんな事情があるなんて
思ってもみませんでした。

「………」
「どうせ…直ぐに死ぬなら…
病気ではなく、お国の為に…戦って死にたかってん…。
だから軍のお偉いさんの父に頼んで…
無理矢理、学校に入学したねん…。」
「そっか…。そうやったんや…。」

「「稔!!」」

米田くんと長谷川くんが走って来ました。

「あ…浩二くん…。僕、ちゃんと…約束、守ったよ…。」
「…っ、稔!!死ぬな!!」
「気を確かに持て!!」

2人は必死に白川くんに呼び掛けます。

「ごめんね…」

白川くんは、笑顔で言いました。


「最期に、大好きな…、皆に会えて…
良かった…。」


握っていた手から、力が無くなりました。

「え…白川くん…?…白川くん!!!」
「………」

白川くんからの返事はありません。

「白川くん!!…ぅ、ぁああ…!!!」
「稔!!……稔!!!」
「ぅ…っ、稔…!!!」
「白川さん…!!」

私と米田くんと長谷川くん、そして松本さんも、白川くんが亡くなり、泣きじゃくりました。
この時、私は思い知りました。
昨日まで笑顔だった人が、今日にはもう居ない。
戦争はこれが当たり前にあるのだという事を。
そんな事、分かっていたはずなのに、
覚悟していたはずなのに…。

「…婦長に、報告してくる。
彼は立派に戦って亡くなったって。」

松本さんは、涙を拭いて立ち去りました。

「……稔を運ぼう。」
「うん…」

泣きながら、白川くんを担架で
遺体を安置する場所まで運びました。
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