第16話

文字数 1,305文字

広島県呉市。軍港と呼ばれる場所です。
何故軍港と呼ばれたのかと言うと、
“守りやすい地形だった”からです。

日本人なら誰もが知っているでしょう、
“戦艦大和”を作った場所は、
ここ呉なのです。
私は海軍では無いので、戦艦大和に乗ることはありませんでしたが。



「ゲホッゲホッ...」
「大丈夫?」

呉に来てから、白川くんが咳き込む事が多くなりました。

「大丈夫!情けない事にさ、僕、
昔から新しい環境になると咳き込むねん。
何でやろうねぇ。」
「何やろう...空気...とか...?」
「まぁ、直ぐに慣れるって!
心配掛けてごめんなぁ。」

物凄く心配ですが、本人が大丈夫って言うから、大丈夫...なのかな?
と、あまり気にし過ぎないようにしました。



呉での生活も、相変わらず厳しい物でした。
1番下の階級の二等兵は、
先輩からの体罰が理不尽と言う言葉では表せない物でした。
私達は幸いな事に、学校を卒業したから、
かなりマシな方でした。
...と言いますか、学生時代にしごかれ過ぎて、
感覚が麻痺していたのかもしれません。


「田中さん!!」

呉にたどり着いて2集荷程経った頃、
何だか聞き覚えがある声がしました。
振り返るとそこには

「え、松本さん!!?」

従軍看護婦の制服を着た、松本さんがいました。

「白川さんとは会えたんやけど、田中さんとは中々会えなくて。やっと会えた!!」
「びっくりした...どうしてここに?」
「私、お店の手伝いをしながら、
従軍看護婦の学校に通っててん。」

まさか松本さんがいるとは思わなくて、
まだ心臓がバクバクと音を立てています。

「そうだ。松本洋裁店...経営が苦しくなって、閉店したの。」
「!!!」
「悲しいけど...しゃあないよね。
あの商店街のお店、殆ど畳んじゃったし。」
「そう...なんや...。」

「田中さん」
「??」

松本さんが急に敬礼をしました。

「私、従軍看護婦として、軍人さん達のお役に立てる様、精一杯努めます!!」

私も、迷わず答礼しました。

「お互い、お国の為に立派に戦いましょう!!」



1942年4月18日。
日本本土は初めて空襲に見舞われました。
東京、名古屋、そして神戸が標的となりました。
被害を受けたのは民間でした。
太平洋戦争開戦からわずか4ヶ月で、
米軍は本土を直接攻撃し、とても大きな衝撃を受けました。

「(紗和さん...!!どうか...どうか無事で...!!)」

彼女の無事を、ただ祈るしか出来ませんでした。



「田中」
「はい!」
「お前宛に手紙が届いている」
「!!」

川本軍曹から手紙を手渡されました。
その手紙には“伊藤紗和”と書かれておりました。

「(紗和さん...!!)」

ですが、空襲前に書いた可能性があります。
軍曹が立ち去ったのを確認してから、
手紙を読みました。

『田中昴様。

桜が散り始める季節となりました。
本日はどうしても伝えたい事があり、
筆を取りました。
私は数日、家を空けておりました。
実家は焼けてしまいましたが、私と母は無事です。
毎日昴さんの事を思っております。

伊藤紗和』


「(あぁ...紗和さん。無事で良かった...!!)」

貴女が無事でいてくれた事だけで、
私の生きる活力となるのです。
部屋に戻り、手紙を無くさない様に保管しました。
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