第50話

文字数 879文字

「もしかして、会話を聞いていたのか?」
「!!...はい、申し訳ありません...。」
「いや。情けない所を見せてしまったな。」
「そんな...!!」

情けないなんて、全く思いませんでした。

「...お前達を見ていると、息子を思い出す。」
「息子さんがいらっしゃるのですね。」
「あぁ。生きていたら、13になる。」
「!!」

息子さんは、お亡くなりになったんですね...。

「(晴子と同じ歳だ...。)」
「息子とそう離れていないお前達が、戦争で亡くなるのを見るのが、もう耐えられないんだ...!」
「川本曹長...」

私は最初、川本曹長はいつも厳しい顔をしていたので、鬼軍曹...と言う言いた方をしていいのか分かりませんが、そんな印象がありました。
ですが、本当は誰よりも、部下の犠牲に心を痛めていた、心優しい方なんだと思いました。

「田中」
「はっ!」
「お前...驚く程立派になったな。」
「は、ありがとうございます。」
「高橋とお前がいたら、この基地にいる兵士の士気は問題ないだろう。
安心して逝ける。」
「......」

正直に言って、私も高橋曹長と同じ気持ちです。
川本曹長には、まだまだ現役で私達を導いて欲しいです。
ですが、今の川本曹長の表情が本当に穏やかで...。
彼の望みを叶えて差し上げたい。
と、心から思ったのです。

「川本曹長。どうか後は任せて下さい。」

そう私が伝えると、川本曹長は優しく微笑みました。

「ありがとう。...私は、本当に部下に恵まれた。」
「...っ」

目頭が熱くなります。
涙が出そうになるのをぐっと堪えました。



「川本曹長!!」

病院に着くと、松本さんが川本曹長の元へ来ました。

「川本曹長、許可なく動き回っては駄目だと先生が言っていたじゃないですか!」
「すまない...」
「田中さん、川本曹長の付き添いをしてくれたん?」
「うん。」
「ありがとう!ここからは私に任せて。」
「うん、ありがとう。
...川本曹長、失礼します!」

川本曹長に敬礼をして、早足で立ち去りました。
坂元大佐なら、川本曹長の願いを叶えてくれる筈です。
その時私がまだここに居たら...
心を込めてお見送りしようと思います。
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