第64話

文字数 696文字

長谷川くんと松本さんが亡くなって数日後。
私と甲斐くんが帰省する日になりました。

「「行ってきます。」」
「気ぃ付けてや。」

米田くんに見送られ、
私は甲斐くんと一緒に汽車に乗りました。

「甲斐くんは名古屋出身やったっけ。」
「はい。ですが、実家が空襲で焼けてしまったので、今は母親と弟と妹が長野の母親の実家にいます。」
「そうなんや…。」

都市部は空襲が多いため、この様に親戚の家へ避難する人がいました。
縁故疎開です。
ですが、甲斐家の様に親戚を頼る事が出来なかったりする人は、学童疎開と言って、
尋常小学校改め、国民学校の3年生から6年生までを対象に、地方へ集団で移動しました。
私の実家にも疎開児が来ています。
紗和さんはそこの疎開児に、絵や勉強を教えたりする活動をしているそうです。

「田中軍曹はどこの出でしたっけ?」
「兵庫やで。米田くん、長谷川くん、松本さんもそう。」
「確かに関西の訛りがありますもんね!
高橋曹長は違うんですかね?」
「高橋曹長は大阪の人やで。」

話をしていると、あっという間に私が降りる駅に到着しました。

「それじゃあ、僕はここで。」
「はい。また呉で。」
「うん。」



最寄り駅に到着しました。
と言っても、かなり歩くのですが。

「昴さん!!」

ずっと聞きたかった、好きで好きでたまらない、優しく美しい声が聞こえました。

「え!?紗和さん!!?」
「少しでも早く会いたくて、来ちゃった!」
「紗和さん…!」

余りにも嬉し過ぎて、私は周りの目を気にせず彼女を抱き締めました。

「会いたかった…!!」
「私も…!!」

これが最期の帰省になるのでしょうが、
どうか今だけは辛い現実を忘れ、彼女と共にいる幸せを感じていたいです。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み