第54話

文字数 1,186文字

紗和目線の物語⑦

呼び鈴を鳴らすと、とても品のある美しい奥様が出て来ました。

「あ、もしかして伊藤紗和さん?」
「はい。今日からお世話になります。
伊藤紗和です。よろしくお願いします。」
「まぁ...!めっちゃ可愛い子...!!
待ってたんよ。さ、お部屋まで案内するわ。」
「(え、お部屋があるの!?)」

「...!!」

正直、物置で寝起きする生活でも全く問題ないと思っていたのですが...。

「ごめんなさいね。家具が中々揃わんくて。」

6畳ぐらいのお部屋に、布団と小さな机に座布団が敷いてありました。

「いえ!!こんな素敵なお部屋で生活出来るなんて思っていなかったので...!!」
「喜んでもらえて良かったわ。
好きに使ってええからね。」
「ありがとうございます...!!」

防空壕で過ごす事に慣れてしまった私には、十分過ぎるお部屋でした。



荷物を置き、お義母様(って呼び方も気が早すぎると思いますが)がお茶を淹れて下さりました。

「紗和ちゃん...で良いんかしら?」
「はい!」
「驚いたわぁ〜!昴がこんな可愛らしいお嬢さんとお付き合いしてるやなんて。」
「あ、ありがとうございます!」
「昴がこの前帰省した時に、紗和ちゃんの話を少し聞いたんよ。
『好きだと告白してくれたのは彼女だけど、今はもう自分の方が彼女に惚れ込んでいる』
って。」
「!!!」

昴さん、そんな風に思ってくれていただなんて...!!

「(あぁ、嬉しくて泣きそう...!!)」

でも、愛の強さは負けない自信がありますが...。
いや、きっと同じぐらい、お互いを愛しく思っているのでしょうね...!



「そうそう、昴には妹がいてね。
晴子って言うんやけど...
もうそろそろ帰って来る筈なんやけど。」
「ただいまー!!」
「あぁ、話をしていたら。
お帰り。晴子。」

私の目の前に現れたのは、黒くて綺麗な髪を1つに束ね、高い位置に結んでいる女の子。

「もしかして、お母さんが言ってた紗和さん?」
「伊藤紗和です。今日からここにお世話になります。」
「田中晴子です!」

昴さんにそっくりで、お人形さんみたいに可愛い女の子です。

「(田中家の遺伝子、最強じゃない!?)」

お義母様もとても美しいし...。
お義父様はどんな感じなのでしょうか...。



お互いに自己紹介を済ませ、ゆったりとした時間を過ごしました。

「あ、片付けは私が...」
「ありがとう!でも、晴子とお喋りして欲しいわぁ。」

お義母様は笑顔で茶飲みを持って台所へ行かれました。



「あの...」
「はい?」
「あ、兄が!いつもお世話になっています!!」
「そんな、こちらこそ!」

それから晴子ちゃんと、他愛も無い話をしました。
晴子ちゃんもどうやら絵が好きな様で、
直ぐに仲良くなれました。

「さ、紗和さん!!」
「?」
「あの、“お姉さん”って呼んでもいいですか!?」
「勿論!!」
「ありがとうございます!!」

妹が出来たみたいで、凄く嬉しかったです。
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