第4話 夢の中で(I)

文字数 1,114文字

 転生前の世界に俺はいた。小さい頃に両親を事故で無くした俺を母方の祖父母が育ててくれた。祖父は古武道、剣術・体術の達人。大きくはないが昔ながらの立派な道場で教えていた。

 庭の道場の横には小さい小屋(ログハウス)があり、そこでは祖母が食堂を営んでいた。祖母は若い頃に世界中を放浪したことがあり、その時各地の料理を学んだらしい。いろんな国々の料理を作っては訪ねてくる近所の常連客に安く提供していた。
 
 俺はものごころついた頃から古武道について祖父の教えを受けてきた。毎朝早くの地味な修行と門下生の人たちとの乱取り。小学校を卒業する頃には、大人顔負けに相当強くなっていた。体捌きと素振りを何百回も繰り返すのが日課であった。

 中学校ではクラブには入らなかったが、あるとき、部員が怪我のため団体戦に人数が足らず、どうしても出てくれと頼まれたことがある。たまたま体育での柔道の時間に手を抜いていたのだが、それでも柔道部員の奴に目をつけられたらしい。

 女子マネージャーと一緒になってあまりしつこく頼まれたので、1回だけならとつい受けてしまった。女子マネはショートカットがよく似合う子だった。可愛い子には弱かったのだ。

 夏の大会の日、次鋒で出場した俺は相手と組むと知らずに体が動いてしまい、背負い投げで瞬殺、圧勝してしまった。その日は数度の試合の度に負け知らず。部員の友達や女子マネ、顧問の先生からも入部を懇願された。それから必死の思いでかわし続けた。
 
 しばらくして、剣道部の同級生と女子マネからも助っ人を依頼された。女子マネはロングのストレートヘアーの可愛いい子だった。あまりにしつこかったので、また1回だけならと受けてしまった。

 秋の市民大会で、中堅で出場。勝ち抜き戦で全勝、次の試合からは副将で出て相手の大将までをことごとく打ち破り、ついには優勝してしまった。剣道部の顧問からは、段位をなぜ持っていないのか訝しがられた。同級生や女子マネからも強い勧誘が続いたが、断固として受けなかった。

 中学では地味にクラブにも入らず、帰宅部となっていたのだが、こんなことのおかげで地元の強面の奴らに絡まれることもなく、無事に過ごしてきた。帰宅すると、道場の脇の小屋で祖母が営んでいる食堂を手伝う。夕方からの仕込みで祖母は魚の捌き方や味付けのコツ、レシピをたくさん教えてくれた。小さい頃から続けてきているので、中学生になった時分ではいっぱしの料理人のレベルになっていた。祖母が忙しい時には、代わりに料理を作ると常連客から絶賛されたのが懐かしい。
 
 でも、そんな祖父母も今はいない、涙が出そうだ・・・

というところで、目が覚めた。洞の外は明るくなっていた。



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