第19話 鍛治ギルド

文字数 1,147文字

 街の外れにある鍛治ギルドまでヨアヒムに強引に連れていかれてしまった。ほとんど連行というのに近いだろう。

 鍛治ギルドは平家建て石造りの大きな建物である。受付に若いドワーフの娘アニタが座っていた。ドワーフの中でもやや小柄だが目鼻立ちは整っていて可愛い。ヨアヒムによれば、性格もスタイルもよくて人気者らしい。アニタはすぐに案内してくれた。

 建物の中はいくつかの部屋に仕切られ、ギルド長のディルクは大きな音を立てて、金床の上に鋼を載せハンマーで叩いていた。ヨアヒムはディルクに近寄ると、耳元で囁く。すると、突然ハンマーの音が止み、俺はいつの間にか、ヨアヒム、ディルク、その弟子達数人のドワーフ達に囲まれていた。

「そのナイフとやらを見せてくれ!」

 目を爛々と輝かせて、ディルクが詰め寄ってきた。俺は収納からナイフを取り出すと手渡した。ディルクをはじめ、集まってきたドワーフ達のため息が聞こえてきた。

「これはなんでできとるのかの?」

 とディルクが聞いてきた。

 収納から、キャンプ用のステンレス包丁、ちょっと高かったが錆のこないモリブデンバナジウム鋼とステンレスの合金のものを取り出した。柄に滑り止めのドットがついている奴でホームセンターで売れ筋として売っていたものだ。塊肉の料理のために以前入手した。

 それを見たドワーフ達から一斉に“ウォーー”と地鳴りのような低い叫び声とため息が上がった。

「なんじゃあ、この刃は?このシェイプもスゴいの、流線型というのか。切れ味も大したもんじゃ。これで錆びないというのはどうしてなんじゃあ?」

 見ると、包丁は既にドワーフ達の手の中を転々としている。そんなに大したものではないのだぞ。ホームセンターでは一万円もしないのだ。昔住んでいた遠くの国の産物で、そんなに値段はしないものだなどとの説明をした。すると、いつの間にか、ドワーフ達から三顧の礼をもって、鍛治ギルドの技術顧問に就任することになってしまった。

 このままでは、いつになっても帰れそうもなさそうなので、ヨアヒムに例の酒瓶のことを話して、酒蔵へ行かなくていいのかと促したのだが、“酒”という単語に惹かれたのか、ドワーフ達は一斉に静まり返った。
 もう一度、ヨアヒムに繰り返して促そうとしたところ、ヨアヒムが

「そうじゃった、そうじゃった。ここでこうしてはいられんの。酒蔵のバジルのところへ行くんじゃった。」

 と話した途端に、一斉に黙り込んだドワーフ達の代表としてディルクが訝しげに聞いた。

「酒とはなんじゃ、なんのことかな? どうして酒蔵へ行くんじゃ?」

 俺はまた喰いつかれてしまうのかと半分諦めながら、収納から焼酎の小瓶を出した。またしても大騒ぎとなった。
 
 結局、酒蔵にはヨアヒムに加えて、ディルクも行くことになった。


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