第41話 辺境伯屋敷へ

文字数 2,069文字

 次の日の午後、俺は辺境伯からの招待に応じて、広大な屋敷を訪ねた。
 門衛は大柄な兵士であったが、話が通じていたらしく、俺が名前を言うと直ぐに通してくれたばかりか、中からメイド長のメラニーを呼び出して案内としてつけてくれた。メラニーは20代後半の少しきつ目な顔をした美人さんだった。多分、メイド業だけでなく、武芸全般に通じてそうな身のこなし方をしていた。

 大きな屋敷の中のホールには、辺境伯の家令(筆頭執事のマックス)、家臣(騎士達、兵士達、書記、厩舎係、料理長、メイド達など)の多くの人々が集まっていた。正面中央には領主のエリック・ブライトン辺境伯が大きな椅子に座っていた。その脇には家族らしき女の人と若い娘が立っている。辺境伯は30代半ばだが栗毛ショート、口髭の偉丈夫で185はありそうだ。知性に溢れ懐が深そうなタイプである。隣の婦人は聡明そうな赤毛の大柄色白美人、娘は15歳くらいの豊かな赤毛で清純そうな美少女だった。
 
 俺が一礼すると、大きな声でエリックが話し始めた。

「この度は、ワイバーン討伐の件、格別の称賛に値いしよう。地元の長年の脅威をよくぞ払拭してくれた。聞けばほとんど独力での対応とのこと、誠にあっぱれである。おかげで、わたしのコレクションにも念願のドラゴンを加えることもでき、重ねて礼を言いたい。ついては、これも何かの縁と感じることしきりであり、我が家の騎士もしくは魔術師として活躍してくれんだろうか?」

 俺は、深々と礼をすると、昨日騎士爵ダニエルにアドバイスされた内容を奏上した。ある事情があり、直接の仕官は難しいものの、出来ればご領地に居を構えて冒険者・魔術師ギルドを通じて活動していきたい。ついてはその支援として住処についてのご配慮をお願いしたい旨である。一瞬辺境伯エリックは眉を顰めたが、直ぐに自分達のメリットを感じ取ったらしい。住居については屋敷を用意するとの有難い意向を示してくれたのだった。その後、代金の金貨100枚の入った袋を受け取った。

 ホールの奥の壁には巨大な2メトルほどのワイバーンの剥製となった頭部が既に飾られていた。聞くと、胴体は大きすぎて剥製にしても壁には収まらないし、なにより貴重な鱗と皮を辺境伯とその騎士達、兵士達の鎧や防具にと武具店のヨアヒム(ドワーフ達)が製作中とのことであった。剥製は頭部だけでもど肝を抜くような迫力であった。 

 昼になっていたので、辺境伯エリックとのその家族(奥様のミラと娘のマリア)、家令マックスも含めての食事会となった。ダイニングには、豪華な前菜、ローストチキン(丸焼き)、スープなどが用意されており、赤ワインでの乾杯から祝宴が始まった。

 食事とワインはかなりのレベルで味わい深いものだった。ローストチキンは香ばしくて絶妙な味わい。ワインで口が軽くなっていたのか、俺は問われるままに、他の討伐、ゴブリンジェネラルやウルフェン、オーガや魔大モグラの話をしたところ、食卓が静まり返ってしまったのに気がついた。しまった、またやり過ぎた。魔法の話は特にしなかったので、全て切断の片手剣で片付けたことにしてしまおう。それより話題を変えなくては。

 俺は慌てて、当地の特産品として検討中の発酵食品や燻製の話を切り出した。今度はこれに家令のマックスが食いついてしまった。彼は領地の財務面も担当しているらしく、特産物と聞いて目がぎらついている。それが辺境伯エリック(というかこれは領主としての立場か)に伝染してしまった。エリックから矢継ぎ早に質問が来た。俺は、まだ商業ギルドと契約を詰めているので詳しいことは言えないが、新しい発酵食品や燻製など複数のものを特産物として試験的に製作、販売することを説明した。エリックは大きく頷くと、先ほど話していた屋敷の件については広場の近くの商店通りに空いている辺境伯家の家作を屋敷兼店舗として譲り渡すと言ってくれた。

 俺は僥倖の極みであるとお礼を言った。今度は今まで黙っていたミラとマリアの番だった。まずは、食卓の近くで料理長から同じ料理を皿でもらっていた子犬のブランカとピリカの話を聞きたかったらしい。どこで生まれたのか、白い子犬はほとんど見たことがなく、また人の言葉を流暢に話すインコなど信じられないとミラ婦人は語った。

 子犬のブランカを本当は神獣のフェンリルとは言えずに、森で迷子でついてきた子犬だと説明、ピリカはインコではなくてオウムだが賢い鳥なのだと話した。ミラ婦人は目を輝かせて聞き入っていたが、食事が終わるとしばらくは二匹を撫で回して大変なことになっていた。一方で娘のマリアには(俺より年上らしいが)妙に気に入られたらしくて、魔物討伐の話の頃からだんだん俺をロックオンする目つきが強烈になってきたというのは考え過ぎだろうか。


 エリック辺境伯と家令マックスからは、屋敷・店舗の手配を進めるので、新しい食品についての報告を随時するように言われてしまった。このくらいの紐付きはいいだろう。いや、世間ではこういうのを後ろ盾というらしい。


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