第27話 近郊の村へ (III)

文字数 1,056文字

 餌の魔大バッタを木の枝に吊るしてから2日が経った。自警団のメンバーも交代しているが、皆、疲労困憊である。餌のバッタも3匹目だ。なかなか魔大なまずは近づいてこなかった。しかし、2日目の夕方、遂に突然水面から巨大な口を開けて、バッタを括りつけたフックに喰いついたのだ。

 その瞬間を逃さずに、周りに待機していた自警団数名が一斉に弓矢を射た。水の上からであればヌルヌルの硬い背中は滑って矢は刺さらない、しかしフックに吊り下げられた腹であれば柔らかいので刺さるのだ。

 皆、見事な腕前で、数本の矢が魔大なまずの腹には刺さっていた。そこから暴れる魔大なまずとの綱引きである。自警団メンバーの一人が転んで足を骨折した。それでも2時間程で最後には魔大なまずは沼の岸に引き上げられたのだ。

 すっかり夜になっていたが、ゴブリンを誘き出すのは早朝の方が良いとのことなので、戸板に乗せて自警団全員で村の門の前の草原まで、3メトル以上はある巨大な魔大なまずを運んだ。

 次に、門の前の落とし穴が並ぶ場所の後方に魔大なまずを横たえる。大きな刀でなまずを切り分けていく。まるで大マグロの解体のような作業である。

 すぐ横に大きな焚き火を作り、明日の朝に蒲焼にする火種を用意する。かなりの火力が必要なので、村人のほとんどが参加して薪作りの作業をはじめた。村の女性たちは蒲焼のタレ作り。といっても醤油ではなくて、魚醤とハチミツとぶどう酒を大釜にいれて大量のタレを作っていく。真夜中に準備が完了、あとは早朝にタレを付けた魔大なまずを蒲焼にしてゴブリンを集めるのだ。

 俺とパーティーのバネッサとドロシーの3人は、真夜中に一旦ドロシーの実家に集まって明日に備えることにした。俺は、バネッサに聞きたいことがあったのだ。魔法のことである。考えてみると、この世界に来てから、ほぼ切断の片手剣でしか戦ったことがないのである。チュートリアルで骸骨戦士と戦ったのは一瞬でカウントは出来ないだろう。魔術師ギルドでのテストで魔力量と適性は十分と言われているのだが、自慢にもならないがまだ魔法ビギナーなのである。

 バネッサは、一言、心配ないと言った。窮地に陥れば、自然に魔法は使えるようになるというのだ。なんだそれって感じである。要するに素質と能力はあるので、魔法がアクティベート(活性化)するキッカケさえあればよいらしい。行き当たりばったりさには呆れるが、もう四の五の言っている時間はないのである。俺は腹をくくった。とりあえずは人の数倍の体力と筋力頼りで行くしかないなと。


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