第26話 近郊の村へ (II)

文字数 1,739文字

 広い草原を超えると村が見えてきた。村は周りを2メトル位の木の柵で囲まれていた。正面と裏側に小さな門があり、若者の門番が立っている。ドロシーとは顔馴染みらしく、軽い会釈をすると通してくれた。

 まずはドロシーの実家を訪ねた。小さい2階建ての可愛い家だ。両親のアレンとタニアは二人ともドロシーに少し似ている。夫婦で村の学校の先生。この世界、識字率は意外にも高いのだ。読み書きは小さい頃からしっかり習うらしい。反面計算はあまり教えないので、すべからく苦手な人が多いようだ。

 ゴブリンの話をすると、状況はよくわかっていないようだ。村長の家で聞いた方がよいと言われたので、3人で村長宅へ向かった。村の中央には広場があり、その並びに少し大きい家が建っていた。

 村長は以前、冒険者をしていたらしく大柄で体格の良いおやじだった。村の警備も担当しているようで、昔とはいえ元Dランクの冒険者で戦闘には慣れている。しかし、村の自衛団は人数が少なく若手で10人にも満たないと嘆いていた。最近、村の近くの裏山にゴブリンの集落が出来たようで、何回か自衛団とともに戦ったが、かなりの数がいるようで苦戦しているらしい。ゴブリンジェネラル、ホブゴブリンが数匹、ゴブリンメイジが一匹、あとは普通のゴブリンが100匹以上、かなり骨が折れる規模だと言う。

 集落は山の洞窟内にあるらしい。入り口には見張りのゴブリンがいるのですぐわかると言われた。こういう時の殲滅策としては、毒煙燻出し策が常道である。入り口といくつかの出口に人を配置して毒煙を炊いて、出てきた奴らを一網打尽にするのだ。ところが、この裏山には無数の出入り口が空いているので、毒煙を炊いてもほとんど逃げ出してしまう恐れがあるらしい。

 そこで俺たちはゴブリンたちを誘き出して村の前の草原で決着を付けることにした。それには、彼らの好きな魔物を餌にする必要がある。この地域のゴブリンの好きなのは、美味で有名な魔大なまずらしい。蒲焼のようなタレで焼けた匂いを含む煙を流すと、いつの間にか集まってくるようだ。そのなまずの前には大きな落とし穴をいくつか掘っておくらしい。

 まずは、近くの沼にいる魔大なまずを捕まえることになった。3メトルを越す大きさなので、普通の釣竿で釣ることはできない。魔大なまずの大好物である魔大バッタを大きな鉄のフックに引っ掛けて大縄を木に吊るして、掛かった瞬間に矢を射ながら、数名でひっぱり上げるのだ。矢が刺さらないと暴れてフックが外れてしまうし、矢だけを射ても表面がぬるぬるなのでなかなか刺さらず逃げてしまうらしい。

 その日は、まずは餌の魔大バッタを捕まえることになった。そのバッタは半メトルはある魔物で、草原に穴をあけて住んでいる。特に強くはないが、後ろ足は強力で一飛び3メトルは跳ねるのだ。跳ねたり飛んだりするととても人間には捕まえられない。しかし、好物の猫またぎという木の実を食べるとしばらくは酔っぱらいのようにふらつくらしいので、そこを捕まえるのだ。

 魔大バッタに猫またぎの実を喰わせて、ふらふらとなったところを俺たちは縄で結えつけることができた。朝一番からはじめて、昼頃には3匹ほどを捕獲できたのだ。一方で、何名かの自衛団のメンバーは門の前の草原に大きな深さ2メトル程の落とし穴をいくつか掘る作業を開始、2〜3日での突貫工事だ。

 午後からは、近くの沼に村長、自衛団の数名と俺たちパーティーで出向いた。沼の端には、大きな木が繁り、太い枝が沼の上に突き出ている。その枝に太い縄に結びつけた鉄の大フックに魔大バッタを括りつけた。自然に動いているようにしないと怪しまれてしまうそうだ。かなり難度の高い作業だった。

 沼の水面から1メトルくらい上に餌の魔大バッタが吊り下がるように枝から縄を垂らして調節する。数名は地上に弓矢要員と綱引き要員、2名ほど太い枝の上に跨って魔大なまずがその下を通るのを待つのだ。
 
 どこかでみた風景だと思ったら、前の世界のアマゾンで2メトル以上にもなる巨大魚ピラルクを突きん棒でつくのと少し似ている漁法だった。でかい魚を捕るにはどちらの世界でも木の上からが効率良いらしい。でも複数の弓矢まで使うのは少し規模が違うかな。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み