第1話 始まりの始まり

文字数 1,698文字

 突然、目の前に現れたのは、エミューのような大きな鳥型の魔物、鋭い嘴と真っ赤な鶏冠を上下に振りながら威嚇してくる。

 でもエミューより一回りは大きく、恐竜映画で活躍するベロキラプトルを彷彿させるシェープ。但し、あれほど素早い動きは見せないのが少しの救いかもしれない。言ってみれば、エミュー・ラプトルだな、これは。

 周りは岩山に囲まれた荒野で逃げ場は無い。遠くに森が見えるけど。初めての試練だ。なんとか乗り越えないと・・・。

 少し時間は遡る。
 
 週末の金曜日、一人キャンプの準備を済ませた俺は、夕方の小腹対策にとコンビニに寄ってレトルトヌードルとグリーンスムージーを買った。35歳にもなって、コンビニのイートインは少し寂しいのだが、一方で今夜からのキャンプはちょっと楽しみ。テント、ランタン、焚き火台、ダッチオーブン、調味料、酒(焼酎)などの準備はばっちりだ。独り身で気楽な反面、侘しさも多少はあるけど。

 勤め先の学習塾も今日は午後早めに終えて気合いは十分。ちなみに学習塾では国語を教えている。読解力などは読書量と比例するところもあり、なかなか教えるのが難しい教科、でも熱心に説明しているので生徒からの評判は悪くないらしい。
 
 コンビニからキャンプ場への途中だった。夜も更け星が瞬く空からの突然の激しい雷光、まばゆい光線が体を貫いた。稲妻の圧倒的な熱量に晒され、目の前が真っ白になり、意識を失ってしまった。

 ♢♢♢

 気がつくとウ◎トラの国のような白い空間に横たわっていた。でも火の玉が見えたわけではないけど(べ◎ラーとかが出てくるわけではない、あれは半世紀前のことだ)。遠くからエコーの効いた重厚な声が響いてきた。
 
 「♪ホアンホアンホワーン♫ 鏡圭太よ、お前は1億人の中から選ばれたのじゃ。これからお前にはいくつかの試練が待っておる。それらを乗り越えて約束の地までたどり着き、あることを為すことが、お前に課されたミッションなのじゃ。」
 
 いきなりの言葉に驚くが、ミッションと聞くと、持ち前の負けず嫌い、反骨精神が顔を出した。
 
 「あの〜、あなたはいったい誰なんですか? 俺は来週からは生徒の受験指導があるので忙しいんです。悪いけど他を当たってくれませんか?」
 
 重厚なエコーの声はかまわずに続く。
 
 「♪ホアンホアンホワーン♫、 悪いが、それは無理じゃの。お前は既に選ばれてしまった。将来、ミッションを果たせば戻れるかもしれないが、今は約束の地へ向かってもらう。選択の余地はないのじゃ。その代わり、いくつかのアドバイスとボーナスを与えよう。」

 「まずは、KARMA。別の言葉で”定め(宿命)”とも言う。望むと望まざるとも、これからお前の行く先々には旅の仲間が現れる。その者たちとお前は一緒に戦うであろう。そしてよほどのことがない限り、仲間との関係もできるだろう。それらも基本的には”定め”によるのじゃ。ただし、限度を越えると定めも変わってしまうかもしれんので気をつけるのじゃ。」

  「次に、POTENTIAL。”可能性"じゃ。これから度重なる試練を経験する毎に身につくかもしれぬ数々の能力(スキル)のことじゃ。但し、どのような能力かは今は判らぬ。なんせ可能性じゃからな。」

 「最後に、 ANALOGY。”類推”じゃ。これから向かう世界は今までのところとはとても異なる。政治も制度も文化も軍事も数千年の歴史で違うのじゃ。しかし、この差を利用すれば新世界の者たちの興味や支持を得られるかもしれぬ。ギャップを活用するのじゃ。」

 俺は声の主の言うことを今ひとつ理解できずにいた。但し、本来が前向きな性格であるために少し楽しさも感じてしまう自分もいた。

 「♫ホアンホアンホワーン♪、 いきなりの試練じゃが、荒野を乗り越えて約束の地に赴いてもらう。旅の仲間は始めはおらんので、当分一人で生き抜くのじゃ。生存するのに最低限の3点セットのボーナスと武道具を付与しよう。あと、体力・筋力はこちらの数倍になるので、まるでスーパーマンのようじゃの。それではの〜。♪ホアンホアンホワーン♫。」

 目の前がまた真っ白になった。


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