第28話 戦いの日

文字数 1,953文字

 翌朝はよく晴れた日となった。まだ朝露が降りて間もない早朝に、俺たちパーティーと村長以下自衛団の全員が門の前に集まった。用意した大量の薪に着火して熾火(おきび)にしてから、その上に巨大な魔大なまずの切り身を並べ、蒲焼のタレを塗って焼き始めた。タレの焦げた独特の香りが辺りに漂う。

 裏山までは数キロあるので、自衛団の一人を偵察に張り付けている。ゴブリンが動き出せば、狼煙を上げる手筈にしているのだ。蒲焼を始めると、しばらくして狼煙が上がった。ところが、その匂いに釣られたのか、思いもよらぬ大物の伏兵が現れたのだ。草原の彼方から、相当大きなものが近づいてくる、3メトルはゆうにある。その内、遠目の効く自衛団の一人が叫んだ。

「オーガだ、オーガがくる!」

 周りに緊張が走ったようだ。張り詰めていた雰囲気もあるが、何名かは泣き声のような悲鳴をあげている。それほどのものなのか。「単体のオーガであれば、Cクラスの魔物であるが、個体差が激しく強いやつだとBクラスに近い脅威となる。」と小声でバネッサが囁いてくれた。少し顔色が青ざめているようだ。

 俺は、収納から切断の片手剣を取り出すと、オーガに向かって草原を駆け出した。後ろから、「早まるな、戻れ」との声が掛かるが一切無視した。こちらの世界の数倍の筋力なので、数百メトルも十数秒もかからずに、俺はオーガの前に飛び出した。

 オーガは、小さい人間がすごい勢いで近づいて来たので、少し驚いたようだ。
 しかし雄叫びをあげて、襲ってくる。手には大きな太い丸太を持っている。叩かれれば、虫のように潰されるだろう。俺は、数メトルの高さまでジャンプして、オーガの頭を超え、すぐに後ろから切りつけた。鈍い音がした。

 さすがに、鋼鉄のように硬いオーガの体を切り裂くことはできないようだ、しかし切り口から血が吹き出しているので、ダメージは与えられたようだった。オーガはかなり驚いたようだが、同時に痛みを覚えたのかかなり興奮している。それまで以上に丸太を勢いよく振り回してきた。

 それからの数分間、俺は体術の捌きを使ってオーガの攻撃を躱しつづけた。しかし、少しでも丸太に触れたら、体の一部が千切れてしまいそうな力強さのスイングだ。このままでは埒が明かない。



 突然、不思議な感覚が体に芽生えた。丹田に力を込めると、エネルギーが下腹から湧いてくるような感触。俺は右手をオーガに掲げて、腹の底からそのエネルギーを少し絞りながら発散した。すると、右手の先から太い炎が火炎放射器のように迸り、オーガの体を襲った。詠唱も呪文もなし、ただ昔の戦争映画で観た火炎放射器のイメージを頭に浮かべたのだ。オーガの体は高温の炎に包まれて、次の瞬間には黒焦げになっていた。

 青い大きな光が俺の体に吸い込まれた。

」と機械音がした。

 ふと我に返ると、はるか後方で、自衛団たちが大騒ぎをしていた。多分喜んでいるのだろう。俺は踵を返すと仲間たちの方へ戻った。バネッサとドロシーは唖然とした表情を浮かべていた。自衛団の連中はとにかくオーガが倒れたので、歓声を上げている。

 しかし、戦いはこれからである、いつの間にか草原の向こう側から、100名近いゴブリンの集団が近づいてきていた。先頭には2メトルほどのホブゴブリンらしい奴らが数匹、その後ろに多くのゴブリン、最後尾にゴブリンジェネラルとゴブリンメイジがついてきていた。

 突然、大きな火の玉が飛んできた。幸い誰にも当たらなかったが、ゴブリンメイジの魔法のようだ。こちらからは、ドロシーが風魔法でスラッシュのような衝撃波を放つと先頭の数匹のゴブリンがもんどり打って倒れた。バネッサの土魔法で、人の頭ほどの石礫がゴブリンの頭上に数十個出現、十匹以上は潰されている。



 ゴブリンたちは、それでも蒲焼の匂いには逆らえずに、こちらに真っ直ぐに向かってきている。人間であれば、2手に分けて進軍するとか考えるのだろうが、魔大なまずの蒲焼の匂いにはもともと少ない理性も全く失っているようだ。苦労して魔大バッタから捕まえた甲斐があったと俺は思ったのだった。
 
 そのうち、バネッサの石礫でゴブリンメイジが斃されたようで、あとは肉弾戦と思われたのだが、ゴブリンはいくつかの落とし穴に次々とハマっていったのだった。上から村長と自衛団のメンバーが一斉に槍でつく。また穴の底には鋭く削った木の枝を逆向きに植えてあるので、串ざしになる奴もいる。辛うじて、ゴブリンジェネラルだけが、こちらに向かってきたが、俺の敵ではなかった。切断の片手剣で瞬殺となり、ゴブリン征伐は完了したのであった。

」と機械音がした。



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