第36話 商業ギルドへの道(I)

文字数 2,541文字

 この世界で商売になるものを探そうと、候補を考えてみた。

 やはり食品だ。この世界で発酵の分野はお酒がメイン、ハード系のパンと魚醤はあるが、他の料理までにはまだまだ及んでいないようだ。食堂(暁の星亭)のキースも塩胡椒だけで調理していたし。塩レモンの他に、味噌、醤油、漬物、ピクルス、ヨーグルト、チーズ、納豆、そうだ、紅茶もあるな。それから燻製食品も見たことがないぞ、保存食品としては貴重なはず。

 こちらで普及していない食品をギャップとして狙うことにした。

 試作品にチャレンジしてみる。

 先ずは、チーズ。牛はいるので、ミルクは入手できる。

 【チーズ(カテッジチーズ)】
 これはすぐにできる。
 ◯3カップのミルクを沸騰寸前まで温めて、火から下ろす。
 ◯レモン果汁かお酢を大さじ3加えて、かき混ぜる。
 ◯しばらくすると固まってくるので布で濾して、水気をしぼり、
 塩少々加えてできあがり。
 液の方は乳清(ホエー)なので、飲んだり、料理にも使えるのだ。 
 また、熱々の内に水気をしぼる作業まで行うのでかなり手が熱くなってしまうが我慢だ。

 モッツアレラチーズのレシピはほぼ同じだが、ミルクの温度を50°Cくらいでお酢でホエーと固形物を分離させて作る。

 これらフレッシュチーズは水分量が多く(足も早い)この世界で商品としてこのまま流通させるのは少し難しいようだ。サラダとかには合うのだけどね。

 そこで、日持ちする固いチーズを作るにはタンパク質分解酵素のレンネットが必要である。牧草を食べる前の子牛(生後2−3ヶ月)の第四胃には母牛のミルクを消化するための酵素がたくさんあり、それを屠殺して取り出すらしい。はじめは肉屋に頼めばと思ったのだが、これは牧場で仕組みを作らないと無理なようだ。ということでチーズは検討課題とする。

 次に、醤油や味噌。大豆と小麦、塩は市場にあったので、あとは麹が必要だ。
 昔、祖母に醤油・味噌の両方とも習ったので作り方は判るのだが・・・

 【醤油】
 ◯蒸した大豆と炒って砕いた小麦に種麹を加え、適温で繁殖させる。(麹)
 ◯水に塩を加えて、2割強くらいの食塩水を作る
 ◯麹にその食塩水を加えてよくかき混ぜて冷所に数ヶ月置く。
  1週間目は毎日、1ヶ月目までは2日に一度、3ヶ月目までは3日に一度、
  それ以降は1週間に一度、かき混ぜてやる。
 ◯約一年以上経ったら、できあがった諸味(もろみ)を布で絞る。

 【味噌】
 ◯大豆をだいたい20時間以上水に浸ける。
 ◯鍋にひたひたにして、沸騰してから弱火で3時間程度煮る。
 ◯人肌まで冷ましたら手で潰す。
 ◯麹と塩を混ぜたもの(塩きり麹)と大豆を混ぜて耳たぶの硬さに。
 ◯樽容器に味噌団子を作って押し込み、空気に触れないように蓋や落とし  布を敷き、重石を載せる。
 ◯冷所で10ヶ月以上寝かせる。(3ヶ月目に天地返しをすると良い)

 麹作りが問題だ。前の世界(日本)の専門家によると元々、稲穂につく胞子の塊に灰を加えると麹菌だけを採れると1000年近く前から判っていたらしい。・・・昔の人は凄かったんだな。

 その米(稲穂)から採った麹菌(麹カビ)を蒸した米に蒔いて、種麹(胞子)を適温の室の中で培養する。さらにその種麹を蒸した米などに蒔いて適温で麹を作る。こればかりはかなり難しく、祖母も俺も種麹・米麹は麹屋さんから買っていたほど。ここが最大の課題になるだろう。先は長そうだ。

 ヨーグルトはどうだろうか。
【ヨーグルト】
前の世界の日本では乳酸菌やビフィズス菌からのヨーグルト種がたくさん市販されていて、大さじ一杯の種に成分無調整牛乳を1カップ加えて40°Cくらいで混ぜ、そのままの温度で保温して数時間発酵させて作っていた。もしくは、種の代わりに、市販のヨーグルトそのものを使っても出来るのだ。しかし、こちらには種もヨーグルトもないのである。

 祖母の常連客に大学の先生がいて、時々モンゴルへ研究に行っていた。先生によると、牛の乳を温めて更に別に発酵させた乳を加えて保温するとヨーグルトができるそうだった。この方法でトライしてみるか。

 でもミルクがある世界ならば、ヨーグルトとバターとチーズはどこかで発達しているのではないだろうか?との疑問はあるが、この国では牛のミルクを扱い出したのがここ最近らしい。魔獣ばかりの世界だったが、近年、牛や羊を酪農用として王族や貴族が他国から取り寄せ、普及させているようだ。でも加工食品の製法までは秘匿されていて持ち込めなかったようだ。
 
 さて、シンプルなのは漬物だろう。 

 【漬物】
 糠床を​​まずは作る
     水  なべに半分
     ぬか なべに半分
     塩 (ぬかの1割強くらいがよいらしい)
 昆布はないが、似たような海草が海辺の街にあって使えるようだ。細かく刻 んで沸騰した水に入れ、火を止め、塩を溶かす。冷ましてからぬかに混ぜる。 かき混ぜて、糠床にする。本当は唐辛子があればここに一本入れたいところだ。あとは好きな野菜を漬け込む。なすときゅうりとカブがいいな。

 【ピクルス】
  ピクルスもカップ1/4の​​酢と水、砂糖がないのではちみつを少々、塩・  胡椒、月桂樹の葉を入れ、一旦沸騰させてピクルス液を作る。大根、カブ、  人参、きゅうりなど野菜をスティック状に切って漬け込む。
     
  こちらではワインやビールの酒粕も捨てているようだ。もったいない。ワインの酒粕はたしか前の世界のイタリアの蒸留酒グラッパの原材料だった。食後に飲むと強いけど味わい深くて妙に癖になる酒である。将来的には作らんといかんな。

  ビールの酒粕(酵母)から作る発酵食品も前の世界ではあった。イギリスでマーマイト、豪州でベジマイトと言われた茶色のペースト状のやつだ。確か、製法は秘匿されていたようだった。ビールを作った最後に残る酵母に熱加工しているらしい。もっとも地元の人以外にはあまり評判が良くなかった。好きな人には熱烈に愛好されるのだが生産国以外の大多数には受けない、微妙な味と香り。でも俺と祖父は結構好きだった。トーストに塗ったり、パスタと和えたりと随分楽しんだものだ。
 
 おっといかん、だいぶ脱線してしまった。






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