第44話 とりあえずちょっと大団円 ー開店の日ー

文字数 1,996文字

 俺は改装が済んでから、さらに3週間後をターゲットとして開店準備を進めていた。材料や調理のことも必要だが、それ以上に大事なのは人手である。ホールスタッフと調理スタッフはどうしてもいるだろう。実は、辺境伯の家令マックスに相談して、料理人一人とメイド二人のデューダ(これは昭和世代の転職の造語である)を依頼していたのだ。

 料理人は辺境伯家のスーシェフを勤めた銀髪美人のエイミー、研究熱心で適任である。ホール係には元メイドの犬獣人の垂れ目と垂れ耳が可愛い子ケイトと狐獣人でつり目とピンとした耳が可愛いココのコンビである。二人とも食べることが大好きで明るいので大丈夫だろう。

 肝心なのは料理や食品である。メニューはエイミー、バネッサ、ドロシーと連日検討や試作を続けて以下のように決めた。

 食べ物: フレッシュチーズピザ
      バインミー 
 デザート: ババロア
       ドーナツ(ハチミツコーティング)
 飲み物 : ヨーグルトシェイク

 やはり砂糖の替わりにハチミツ頼りなのが少しつらいところである。

 【ピザ(チキン・キノコ)】
 フレッシュチーズはモッツァレラチーズの製作に成功、あとは完熟トマトと にんにくでトマトソースを作り、これを小麦粉・水・塩とで練った薄いドゥー に塗る。鶏肉は塩胡椒と魚醤で下味をつけた薄切りで軽く火を通しておく。キ ノコはマッシュルーム薄切り。チーズと具をドゥーに乗せてピザ釜で熱々に焼く。

 【バインミー】
  コッペパンに目玉焼き、レタス、薄切り豚肉を挟み、魚醤ソースを塗った。
本当はレバーペーストとバターも塗りたいがそれは今後の課題。(元々前の世界でも西洋(バター)と東洋(ニョクマム)が融合した魔界料理のような美味さだったもの。こちらにはベストフィットだろう)
 
 【ババロア】
   ミルク、卵黄、ハチミツを混ぜて俺の収納(冷蔵機能)で冷やして固める
でもほとんどプリンである。ゼラチンは今後の課題、将来的に俺の収納機能ではなくて、冷却魔法(生活魔法の使い手のエイミーが修行中)でできるようにしたい。

 【ドーナツ】
   重曹(ベーキングパウダー)は天然鉱石で採れるようで、探すの一苦労であった。小麦粉、卵、重曹、塩、ハチミツを混ぜてオーブンで焼く。焼き上がりにハチミツでコーティング。

 【ヨーグルトシェイク】
   ヨーグルトもモンゴル方式でミルクを粘り強く攪拌し、濾した乳清からヨーグルト種の製造に成功、あとはミルクとハチミツとでシェイクするだけである。

 ホールを改装した店舗は暗褐色のチークフローリングに赤白チェックのテーブルクロスを掛けたテーブルを並べた。前の世界のカフェとイタリアンレストランを混ぜたようなイメージとなった。店名は『カフェ・ブライトン』。食品販売コーナーにはバインミーとドーナツが並んでいる。

 いつの間にか、商業ギルドのブルーノとメアリー、家令のマックスや冒険者ギルドのミレーヌ、酒蔵のモニカなどが街中に宣伝してくれたらしく、開店の朝10時前には、店の前には長蛇の列となった。特に女性が多いようだ。それからは嵐のような時間が過ぎて、夕方に、その日用意した食材が全て無くなるまで客は途切れなかった。

 キッチンではシェフのエイミーと俺が、ピザ釜やオーブンに張り付いていた。俺は指輪を擦ってジミーを呼び出し、ピリカ(フェニックス)にも頼んで、風と火の専門家としてのコントロールを依頼したので、かなり繊細な調整が可能になったのだ。

 「(あるじ)、まかしておくピヨ」

とピリカは力強く頷くと相棒のジミーと大活躍。

 一方店舗の方でもホール係のケイトとココは得意のメイド姿で奮闘、当然のようにバネッサとドロシーも魔女コスチュームとなり、その日来店した男性客の多くはその4人の姿にかなり萌えて新しい顧客層(大得意先)となったらしい。

 密かに領主のエリックやその家族、ミラとマリアもお忍びで来ていた。家令のマックスが護衛の振りをしてぴったりと張りついていたようだ。騎士爵のダニエルやその妻ソフィア、娘のエレインとリサもにこにことしながらピザとドーナツに齧り付いていたのが印象的。冒険者ギルドのクロードとミレーヌと来店した受付のアンナはバインミーに夢中だったらしい。酒蔵のバジル・モニカ夫婦と武具店のヨアキム、鍛治ギルド長のディルク達も辛党のはずなのに4人でテーブルを囲みドーナツに舌鼓をうっていた。これはキリがないな、こいつら暇なのか、ほとんど全員来てやがる。

 こうして、新世界でのアンテナ店舗にして初めてのファストフード店カフェ・ブライトンは順調なスタートを切ったのだった。売上げもかなりの金額に上った。しかし、ピザ、バインミーやドーナツなどがその後ブライトンの特産物としてこの国どころか他国にまでその名を轟かすようになるのは、まだだいぶ先のことであった。

 第一部完 
 


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