第32話 魔術師としての研鑽(I)

文字数 1,664文字

 魔術師ギルドの部屋には2日程厄介になり、3日目の朝に、やっと部屋が空いた黄金の卵亭へと戻った。久しぶりに部屋で一人になり、以前本の小部屋で収納に入れた本を確認してみた。

 魔法の本が3冊
   錬金術大全、付与魔法大全、使役魔法大全
 図鑑が3冊
   魔獣図鑑、草木図鑑、海獣図鑑
 地図が2冊
   宝物地図、迷宮地図
 あとはよく表紙が読めなくなっている薄い本が多数。
  
  その中で、少し気になった使役魔法大全を取り出してみた。そんなには分厚くはないが魔物の皮で特色ある装丁がされている。本を開くとたくさんの魔物や動物の絵と説明が記されている。前と同じように勢いよく頁が捲られて行き、頭に知識や呪文が飛び込んでくる。10分程で頭が痛くなったので、今日はこの1冊にしておくことにした。
 


 しばらくするとバネッサが訪ねてきた。せっかく火の魔法が発現したので、他の適性の魔法も研鑽すべきとのもっともな進言をしにきてくれたのだ。まずはバネッサの得意な土魔法をということで早速彼女と一緒に近くの山へ赴くことにした。魔物との戦いの実践で学ぶのだそうだ。

 バネッサが魔術師ギルドの馬車を出してくれた。街道を何時間かしばらく進み、山の登山口に馬車を停め、そこから獣道のような細い山道をつたって山を登っていく。

 しばらくすると少し開けた場所に出た。岩山である。岩壁のところどころに石灰の発掘現場でみられるような大きな穴が空いている。

 突然、大きな音がして、目の前の岩壁が崩れた。中から巨大な魔大モグラが顔を出している。5メトルはある大きなC+ランクの魔物だ。目は小さくて見えないようだが、臭いでこちらを勘づいているようだ。鋭い爪を立てて襲ってきた。

 バネッサが弓矢を射るが、毛の生えた表皮が硬くて弾かれてしまっている。土埃の中で、俺の体にはまたあの感覚が芽生えてきた。丹田に力を入れて、腕から指先へと湧いてきたエネルギーを集中させた。頭には尖った重機のアタッチメントのイメージが浮かんだ。エネルギーを指先から解放すると、先の鋭い大きな石礫が数個勢いよく飛び出して、魔大モグラの体を貫いた。青い光が魔物の体から出て、俺に吸い込まれた。

」と機械音。

 今度は、土魔法が発現したようだ。スパイク魔法とでもいうのだろうか、結構な威力である。収納に魔大モグラを格納した。

 いつの間にか周りの土埃は収まっており、その向こうには、新たに真っ白で巨大な狼の体をしたフェンリルが唸り声を上げながらこちらを伺っていた。大規模な土魔法を使ったのでその魔力に反応して近づいてきたようだ。

 フェンリルは先ほどの魔大モグラよりも大きく、だがどこか神々しいフォルムをしている。これは戦ってはいけないやつかもしれない。しかしフェンリルは相変わらず低い唸り声を上げてこちらを見ているようだ。俺は、思わず今朝読んだばかりの使役魔法の呪文を唱えていた。

 すると青い光が俺の指先からフェンリルへと向かい、その体を包んだ。唸り声が止んだ。フェンリルの体が見る間に縮みだし、秋田犬の子犬くらいの大きさに変わった。念話のような声が頭に響いた。

「我は山の大精霊グノームの眷属である。しかしこれからは(あるじ
)
にも仕えることにもなる。土と大地の続くところでは常に主とともに。」

 驚いたことに、フェンリルはグノームの眷属のまま、俺に使役される神獣となったようだ。また、必要なときには、先ほどのように巨大化して馬代わりになることも念話で伝えてきた。

 唖然としているバネッサと俺は巨大化したフェンリルに乗り、馬車を止めた登山口まで戻った。巨体なので二人乗りなど楽勝である。ブライトンの街へ戻る馬車に俺とバネッサと今度は子犬化したフェンリルが乗り込んだ。

 フェンリルは俺をじっと見つめてまた念話で名前をつけて欲しいという。雌らしいのでブランカと定番の名前をつけると満足そうに尾を振った。(もし雄だったらロボだった。シートン動物記には小さい頃からハマっていたのだ)


 
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