第17話 街の食堂

文字数 1,008文字

 昼近くになり、お腹が空いてきたので、一本通りを越して、商店通りに向かった。
 武具屋、魔道具屋、食品屋、よろず屋などが並んでおり、小さな食堂も開いていた。暁の星亭という店だった。

 木製の家具に赤白チェック模様のテーブルクロスがかけられて、昔のイタリアレストランのような雰囲気だ。壁にはメニューの黒板と風景画が何枚か飾ってある。

 メニューはシンプルで、豚肉、鶏肉、牛肉、魔物肉のソテー(塩味)と野菜スープだけ。ウエイトレスは胸の名札にカレンとある。少し小柄だが、若くて可愛い人族の女の子だ。オーダーを聞いてきたので、豚肉のソテーとスープを頼んだ。

 しばらくすると、沸々と鉄板の上で焼けた豚肉ソテーが出てきた。焼き方はちょうど良いのだが、惜しむらくは味付けだ。塩・胡椒だけなのでちょっと物足りない。塩パンは少し発酵が足りないのか固かった。

 本当はマナー違反かもしれないが、物足りなさから思わず収納からキャンプに持参するつもりだった調味料を取り出す。作っておいた塩レモンの小瓶。昔祖母から教わったものだ。

 【塩レモン】
 (塩レモンの作り方は簡単。瓶に、輪切りにしたレモン3個と同量の塩を交互に並べていく。密閉して毎日瓶を振って混ぜるだけ。水が上がってきて3週間ほどで出来上がり。)

 隠しておいたつもりが、キッチンから店主に見られていたようだ。茶髪で小太りの中年の店主がすごい勢いで詰め寄ってきた。文句を言われるのかと思わず身構えたのだが、

「お客さん、その小瓶の中身は何ですか?もしよかったら味見をさせて貰えませんか?」

 と店主が聞いた。圧がすごい。

 文句ではなかったので少しほっとしたが、別に隠すほどのものでもない
 ので、小瓶の中身の塩レモンを小皿に移して店主に渡した。

「これは、何ですかい? 塩辛いけど、酸味があって爽やかで、味わいがある。豚肉にも合う。 いったい何なのですか?」

 店主はかなり驚いたようで、しつこく聞いてきた。

 そこまで言われては、教えないわけにはいかない。店主に、柑橘系の最も酸味がある果物と塩と瓶を持ってくるように伝えた。店主はあっという間に、黄色いレモンのような果物と塩の壺と、小さな瓶を持ってきた。俺はとても簡単な塩レモンの作り方を教えた。

 店主は感激したようでキースと名乗り、レシピのお礼としてこれから半年間の食堂の無料券をくれた。肉の焼き方はうまい店なので、たまには寄ってみることにしよう。



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