第4-5話 戦闘の行方

文字数 1,522文字

エルは『黒点』を手に、いつでも戦闘に臨めるように、導力を整流した。同時に考える。

自分を重心に、三人が三角形のように取り囲んでいる。彼らが未だ攻撃してこないことを考えると、僕がどの程度の力があるか分かってはいないのだろう。だとしたら、まずは遠距離同時攻撃か。それで力量を測りつつ、ついでに戦闘力を削ることを考えるか?ならば、あの凶悪な気配からして、毒もあるか?次弾はなんだ。力を測れなければ、また遠距離。勝てると見込めれば、近距離にくる。一方で僕は近距離に持ち込まないと相手を削げず、いずれ三人についていけなくなり敗北する。だから、敢えて避けきらず弱く見せるという選択肢もあるだろうか。

エルは、三人の導力の不整脈さからそれほどの導術の使い手だと思っておらず、近距離になればなんとか導術で翻弄し、勝つことができるのではないかと考えていた。


そして遂に戦闘の火蓋が切って落とされた。
最初の一手は、ガダジ三兄弟だった。彼らはエルの予想通り初手を遠距離からの投擲で始めた。ただ予想外だったのは、投げたのが明かりを灯す魔導石だったことだ。エルの目の前で爆発的に強く発光したそれは、エルの目を潰すのに十分で、エルは目を閉じざるを得なかった。ガダジ三兄弟は以前までは神経麻痺系の毒矢を初手に打つことが多かったが、オルナの戦闘で以前見たこの手を真似したのであった。夜の戦闘と魔導石での殺し合いをほとんど経験してこなかったエルにとって、暗闇であろうが視神経を奪われたことは、大幅な戦力ダウンをもたらした。

ここで、導力を持たぬ短剣などを投げれば、エルは殺されていたに違いない。しかし、ガダジ三兄弟は練度の高い竜術の使い手との戦いは初めてだった。ガダジ三兄弟が戦ってきたのは、竜術のない世界で戦闘の基礎を築いた人間たちしかいない。故に、知らなかった、エルが生き物の導力を感知して戦えることを。

こちらの戦闘は、夜であれば明かりの灯る魔導石を使い、戦闘は幼少期からやってきた剣術や体術を基本とする。そこにアクセントとして、相手への牽制や隙を作る目的で魔導石を使うというのが、この世界でのセオリーであり、そもそもとして今エルがここまでやってきたような"視野の代わりに導力を感知する"ということが出来る敵とは接したことがなかった。

本来、エルが暗闇を走っていることで、それに気付くべきであったが、ガダジ三兄弟はそれほどの知能を持ち合わせていなかったし、そもそも他人の行動に興味がなかった。彼らが興味あるのは、ただただ他人の苦しむ顔だけだった。

それが彼らにとって不幸を生む。
作戦通り三男ジジが、目が見えないと思い込んで、エルに音を消して接近した。腰元にかけた短剣の鞘から剣を抜いて、エルに襲いかかる。エルを刃が貫いたかに思えた瞬間、刺点となったエルの脇腹には氷の膜が張っていて、刃は表皮にすら到達し得なかった。同時に、エルの『黒点』がジジの体に刺さり込んだ。この間、ガダジ三兄弟が投げた魔導石の発光から二秒。

『黒点』の刃先は短く、それのみで致命傷とはなり得ないほどしか刀身が残っていない。しかし、刺されて間もなく、ジジは地面にずるりと倒れ込んで絶命した。

一番驚いたのはエルだった。致命傷とならない前提で刺し込んだのだ。命は取らずとも、傷を作り、時間を稼ぐつもりだった。この三人の関係性は分からないものの、上手くいけば三人を治療のために足止めできるかもしれないと思っていたのだが。ジジは『黒点』を刺された瞬間に、全ての導力を失い--魂を失って絶命したのだった。

三人と一つの死体の間では、事態が飲み込めずに、体感的には永遠に近い数秒間の静寂が訪れた。

最初に堰を切ったのは長兄ガガだった。
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