第5-3話 次なる目的地へ

文字数 1,358文字

カンタと別れたエルは、ヴァン・サメルを探すため、まずはナナイとの合流地点『ハナモンド』を目指して森に入った。ハナモンドへグリーンモールから延びる街道もあったが、食糧を得るのに導術を使いたい--それを見られた場合、どう反応されるかわからないため、まだ人前で使いたくない--のと、下手に会話を吹っ掛けられ、情報を売られる事を恐れたため、やむなく森を往くことにした。

エルの内心には、カンタもナナイも大丈夫だろうかと心配する気持ちはある。しかし、やる事をやらねば、まだまだ同じ様な悲劇が起こるだろう。それは防がねばならない。そして、皆の能力を信頼し、自分も同じ様に自分の仕事を果たさねばならない。エルは意を決して前に進む事にした。


しかし、その前に。


「出てこい。ずっと尾けていたんだろう」
エルは今までよりもクリアに、これまでよりも広い範囲で他人の導力を感知出来るようになっていた。それは、導力が魂と一体であるが故に魂が成長したことによるものであることが一因であったが、不思議に思いながらもエルにその認識はなかった。しかし、それを認識しない事が一つ良き事でもあった。

遠方から近方にかけて、順番に何本もの木々がガサガサと揺れた後、エルの前にガダジ三兄弟の次兄ダダが木から飛び降りて登場する。

「なんだよお?オイラは兄ちゃんから、お前を尾行するよう言われてるんだ!お前に構っている暇なんてないの!」

そう言ってダダは顔を赤くして、地団駄を踏んだ。エルは動揺する事も無く、『黒点』を構えつつ冷静に告げる。

「後顧の憂いはここで断つ。君はここに貼り付ける」
「なんだ、なんだ!難しいこと言うな、生意気だぞ!」

重心を腰部に落として、エルは深く息を吸い込んで力を込める。エルの集中は深く、その目は思考の色がない、純粋たる黒色と化していた。そして、踏み出してから一瞬。勝負は決した。


結果、ダダは気絶させられた後、木に身体を蔦で固定された。勝負はこうであった。エルは一呼吸後、踏み出してダダが構えるより早く、ダダの足を地面に巡らせた氷で接着し、その頭に目掛けて火を吹いた。火がトラウマになっていたダダが過剰に頭をガードしたところを、腹部に目掛けて『黒点』の刀身で、切るのではなくただ触れた。すると、ダダの導力は一瞬で枯渇して気絶。そして、ダダを戦闘不能にした後で、エルはその辺の蔦に導力を巡らせ延伸し、ダダを縛り付けたのだった。

エルはダダを固定した足元の氷を見る。今までは出来なかった芸当だった。終えた後で、エルの脳裡にジェロの言葉が響く。
「赤子も最初は歩けねえが、ほっといてもいつの間にか歩き方を覚えやがる」

考えて今回の戦い方をした訳ではなかった。直感。それに従い行動した。それが導術の腕前も上げたのかとその言葉で気付き、エルは一人微笑んだ。



それをエルの感知も視覚も遠く及ばぬ木上で見ていた男が、ひとりごちる。
「はあ、随分と凝り固まった魂をしている。実につまらない。おい。一体、どんな育て方したんだ?」
「スタテンド」

栗毛の男ヴァン・サメルは顎をさすりながら、顰めっ面を浮かべて、亡き友への愚痴を空に投げ掛ける。彼は、黒刻竜の目覚めを感じて、ここに来ていた。そして、リュゼから降るエルとナナイを見つけて、遠くからただただその行動を監視していたのだった。
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