第5-4話 レジスタンスとの邂逅

文字数 1,066文字

 それは突然の事だった。
 スタータ王国に反旗を翻した国民の一部から成るレジスタンス---名を『ラミアン』という---の東部第三部隊が哨戒中に、スタータ王国の正規軍と会敵したのだった。互いに想定外の事態だったことから戦況は混乱を極め、死者が多数出る大規模な戦闘となってしまった。スタータ王国軍は、そもそもオルナの指示により詳細は知らぬまま「竜術を使う危険な者達の残党狩り」のために展開していて、ラミアン東部第三部隊は、根城にするグリーンモール近郊の廃坑付近を、昨日の"グリーンモール消失事変"の調査の為に巡回していただけだった。ラミアン東部第三部隊がスタータ王国の動きを把握出来ていなかったことが不幸の始まりと言えるが、要衝とは言えないこの地に優れた諜報力が無いのは仕方のないことであった。

 戦闘はスタータ王国軍数百人対ラミアン数十人だったが、地の利を活かせるゲリラ屋のラミアンの方が圧倒的に有利であり、王国軍は陣形を組む事もまま成らないままで対戦していた。事情を知らないラミアン達は、「自分達を殲滅しに来た」と勘違いしており、それぞれが死兵と化して、逃げるという選択肢を取らなかった。一方で正規軍は「竜術を使う残党達の一派」と考え、指示を全うすべく、こちらも撤退しようとしなかった。両軍共に竜術をまともに使える者はほぼおらず、魔導石による戦闘であって、最初は爆発音なども派手に頻繁に聞かれたが、次第に手持ちの魔導石が無くなったのか、剣や槍での戦闘に移行した。


「あれは正規軍の旗だ」

 エルがやって来たのは、そんな状況だった。爆発音を聞き、黒煙の上がる所を目指してきたのだ。木上から遠目に戦場を見ていると、多少リニューアルされているものの、スタータ王国の装束は十年という刻を経ても大きく変わっておらず、掲げる所属を表す軍旗もまるで変わっていなかった。
 エルは迷った。当初「ナナイが見つかったのか」と走り出した後で、リュゼの人の誰かという線もあり得ると急いだが、知っている誰の気配もこの戦場には無かった。それでも人が死んで行っている事を止めたいと思い、戦場に介入しようと思ったが、誰と戦っているのかも分からず、どちらが悪いのかも分からなかった。エルは冷や汗を流した。早く止めないと、人が死んでいく。しかし、どうすればいいのか、自分一人で何が出来るのか分からなかった。


「さあ、どうする?」
 ヴァン・サメルは、遠目にそんなエルを観察し、問い掛ける。エルに聞こえる訳はなく、無言のまま戦場を見るエルをサメルはただつまらなそうに見つめるのだった。
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