第4-9話 嘔吐と胸中

文字数 556文字

エルはナナイのグライダーを探す道中で立ち止まっていた。木に寄りかかり、嘔吐していた。

人を殺した。手に残るその感覚が、認めたくない現実を嫌でも感じさせ、思わず吐き下したのだ。知らなかったのだ、不可抗力だったのだ、と内心言い訳しても何も改善せず、数時間前にジェロと食べた昼食を--ジェロとの最後の食事を余すことなく、その心中の苦しさと共に吐き出した。


一通り吐き終えて、疲れ果てたエルは、吐いたところではない木に寄りかかって、そのまま背中を滑らせて座り込んだ。そして、苦しさのあまり目を瞑り、深呼吸したところ、そのまま眠りの中に落ちてしまった。


ガダジ三兄弟の次兄ダダは、エルを視認できないほど遠くで、エルの気配を感知し観察していた。エルがしばらく動かなくなったことも分かっていたが、だからと言って動こうとはしなかった。これが、長兄ガガならきっと目視により状態を確認するために動いたに違いなく、そうなればエルは死んでいた。

しかし、常に長兄ガガに指示されて生きてきた次兄ダダには臨機応変という言葉を知らなかった。自分がガガから指示されたのは、あくまで「アイツを尾行すること」であって、決して「アイツを殺すこと」もしくは「アイツから剣を奪うこと」ではない。だから、この状況でも動こうとしなかった。


そして、そのまま夜が明けた。

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