第2-16話 逃げおおせる過程で

文字数 1,184文字

クーデターの翌日、オルナは城の前に人を集めて、事態の説明を行った。エル第二王子が謀反を企て、国王と王妃を殺したと。

雄弁に語るオルナの横には、大罪人として罰せられた"エル"とユーハの生首が掲げられており、城下にはユーハの妻を初めとする、謀反の関係者の生首が晒されていた。

その演説の途中、エルの生首を見て、「カナジ!」と泣き叫ぶ、気狂いと思われる小太りの男が現れたが、早々に警兵に捕らえられて、どこかに連れて行かれた。

その後も、言葉の覚束ない汚らしい童がエルに会いに来たが、エルの関係者として童の一族郎党含めて処刑された。

聴衆は、見たことも聞いたこともない第二王子がそんな事をするわけないと気付くはずもなく、獅子王として崇めるオルナの言葉を鵜呑みにした。察しの良い一部の各国代表は、オルナのクーデターであると勘付いたものの、それを流布することはせず、自国に早々に帰って、防衛力の強化を図った。

世の中はまた戦乱の時代へと突入したのだった。


一方、エルとゴーマンは、追撃をなんとか捌きつつ、リュゼに行くために雪山を登っていた。

ゴーマンはリュゼの衣装で自身の後ろに風を起こして、追い風状態にして走り続けたが、馬を利用するスタータ国の包囲網を突破するのは容易ではなく、何度も戦闘となった。"導力"を消耗し続けたゴーマンは、戦闘でも苦戦するようになり、傷を多く作った。それでも何とか逃げ切り、今"空飛ぶ島"であるリュゼがこれから接近する雪山に辿り着いたのだった。

ゴーマンは、その背中に毛布と共に括り付けたエルに、独り言のように語りかける。ゴーマンは周りに暖かな風を起こすように導術を使っており、エルはほとんど寒さを感じなかった。

「オレにも一人息子がいるんだ。ゴードンっつうんだが。調査役になって十数年になるんだが、成り立ての頃に妻が死んじまってな。ずっとジェロっつうジイサンに預けてるんだわ。時々帰れば顔を合わせるんだが、正直何をしてやれば良いのか、何を話せば良いのかも分かんなくてよ。」

エルも、疲労と精神不安定により朦朧とする意識の中でコクリと相槌をうつ。

「こうやってただ背負ってやれば良かったのかもな」

ゴーマンは、この旅の途中で築いたエルとの関係を思い起こし、今までの人生を反省しながら一人笑った。


八分目まで着くと、そこからリュゼが最接近するまでをそこで過ごして、大きな雲塊が見えたときに、山頂から小型のパラグライダーで飛び立った。ゴーマンのことを数日前から感知していたナーラが手配しておいた釣り要員がゴーマンとエルの乗ったパラグライダーを回収し、ゴーマンとエルはリュゼへと辿り着いた。

ジェロは、特例ながらもエルを受け入れることを決め、泣きじゃくるエルを優しく抱きしめた。ゴーマンは、一通りの報告をした後、数日間昏睡状態となり、一日だけ意識を取り戻してゴードンと会った後で死んだ。


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