第4-4話 樹海の迷子たち

文字数 1,002文字

エルのところに、追手の三人が向かってくる。エルはその気配を感じながら、ナナイと遠ざかる方向に囮として逃げ出した。夜の樹海は目が慣れようとも暗闇で、ただ走るだけでも難しい。植物などが発する気配--導力は全ての生き物がもっている--を感じ取りながら、エルは歩くのとほとんど変わらぬ速度で走った。一方で、追手の三人は、辺りが明瞭に見えているかのように全速力でエルの方に駆け寄ってくる。

「魔導石だろうか」

エルはひとりごちた後で、兄の部屋でのユーハとの記憶が脳裏を掠めた。一瞬悲哀に飲まれそうになった自分を、エルは首を振って投げ捨てて、先に向かう。

一定の距離まで追いついたところで、追手の三人は三叉槍のように散開し、エルを取り囲むべく位置取りを始めた。走っていると、樹海の木々の隙間から時々魔導石の灯りが漏れ見えて、エルは焦燥感を感じて、少しだけ歩を早めた。それも長くは持たず、エルを追い越して、エルの前方の左右にそれぞれ一人が位置し、後方にも一人がじわりと近づく。エルは立ち止まり、戦闘体制に移った。


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ソランは木々の上を走りながら、手持ちの魔導石から掌くらいの氷を生み出して、それを正体不明の雲に目掛けていくつか投げつけた。すると、雲から鳥のような何かが飛ぶ力を失い、急速に高度を下げながら森の木々へと突っ込んだ。

ソランがそれが墜落したところに辿り着くと、木々にひっかかったグライダーの下で、一人の少女が地面に伏していた。ソランは木の枝から降りずに、明かりを生む魔導石を彼女のそばに投げ落とすと、その子は十代くらいで、目を閉じて気を失っているように見えた。

「こりゃ、困ったな」

ソランはその長い前髪をかき上げながら苦笑した。あの三馬鹿が来ていたらどんな目にあったか分からんぞ、と眠る彼女に内心ひとりごちて、彼女をどうすべきか処遇を考えた。

空から降る者は全員殺せと言われているが、無抵抗なこんな少女を殺せはしない。せめて、目を開けて殺し合いとなるなら、殺すことは出来るだろうが。

今回は賭けに負けだ。ソランは、消極的な自分の性格が良い方向に働けば勝ち、悪い方向に働いたら負けと評価して、自分の人生を一つのギャンブルとして楽しむところがあった。特に今回は相手方には有利に働いたことから、近年稀に見る大負けだなと笑った。


ナナイは落下の衝撃で気を失っていた。それでも、夢見心地に苦悶の顔を浮かべて、「エル」と一言呟いた。
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