第4-1話 夜からの逃亡。迫る追手

文字数 1,034文字

ナナイはエルの腹部に触れて、水を凍らせる導術の要領で一瞬だけ低体温症を引き起こさせた。エルは瞬間的なショックに意識を失い、ナナイに被さるように倒れかかった。それを受け止めて、回復させながらナナイは涙を一筋流す。

「エル、あなただけはなんとしても逃すから」


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数日前、ナナイの元にジェロが現れた。

「よう、ナナイ。カッカッカッ、息災か?」
「うん。どうしたの?おばあちゃん、まだいないよ?」
「いやなに、今日はおめえに用があんのさ」

そう言うとジェロはナナイの家に上がり込み、椅子に座って話し出した。ゴーマンや現調査役のファバマから聞いた、スタータ王国の現況や、エルの悲しき過去について語った。そして、最後には「こりやあ、俺の我儘かもしれねえが、何かあったときは、ナナイ。お前がエルを逃してやってほしい」と結んだ。ナナイはエルの悲しき過去に同情して、"エルをなんとしても守る"と涙ながらに決めのだった。

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ナナイはエルを引きずるように背負いながら、脱出用のグライダーに乗り込んだ。チュマの細い枝を骨子に、鳥の皮や羽を貼り付けただけで、主翼や尾翼に調整機構の持たない簡易的なものだが、リュゼの人々は風を自らの意思で調整できるため、さして必要ない。

そして、リュゼから雲を纏った一機のグライダーが飛び立つのだった。


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「兄ちゃん、ひとつ出てきたよ」
「ああ、追うぞ。ダダ、ジジ」
「うん!"あの方(オルナさま)"の言ってたとおりだ!」
「でも、"あの方(オルナさま)"の予想より少ないよ?」
「そんなの気にするな。今から楽しい楽しい狩りの時間だ。なあ、そうだろ?ロン毛の兄ちゃん」

悪虐非道で名の通るガダジ三兄弟が振り返ると、視線の先にいたソラン"SK隊"隊長が気怠そうに頷いた。

"SK部隊"は、センサー&キルの略称で、オルナが体系化した『竜術』--リュゼでいう『導術』の使い手の中でも、感知能力が非常に高く、殺人能力も持ち合わせた人間を集めた隊で、偵察だけではなく、あわよくば殺してもいい場合に任用される。その中でもガダジ三兄弟は、凌辱、拷問、略奪、殺人と愉しさのためなら何でも行うことで知られており、隊長であるソランは、彼らを嫌っていた。

ソランは、介護が必要な母を養えればそれで良く、そもそもオルナに傾倒して仕える者たち--ガダジ三兄弟たちのようにオルナの下だからと集まった変人たちとは違っている。そう思っている。

走り出したガダジ三兄弟の後ろについて、ソランも雲に包まれながら移動するグライダーに向かい走り出した。
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